宅配会社の契約社員としてなんとか就職

金融機関には担保に差し出していたスタンドの土地、建物を差し押さえられたし、自宅マンションも売却して負債の弁済に充当することにした。

「これで弁済できたのは負債の6割程度でした」

もう弁済原資はないからこれ以上の弁済は不可能。3カ月後には会社の倒産処理(法人の破産)は終了した。法人の倒産処理と同時に葛西さん個人の破産と債務免責も決定。これで葛西さんはすべての債務から解放された。

「法的な処理が完了したあとは都内に転居しました。やはり元々の街やその近くで暮らしていくのは辛かったですね」

仕事を探すにしても埼玉県より東京都の方が見つけやすいと考えた。

「引っ越し先を探すのは大変でした。何しろ無職で定収はなし、蓄えもほとんどゼロ。これでは不動産屋に行っても入居審査が通らない。何とかなったのは福祉用物件(主に生活保護者用)だけでした。息子が保証人になってくれたけど、家賃保証会社に払う保証料は普通の人より5割増しぐらいの金額を要求されましたね」

郊外とはいえ4LDKでオートロックのマンションから2Kの風呂なしアパートに急降下だが、これで住まいと住所は確保できた。社会人2年生の息子は会社の独身寮に転居したので夫婦2人で暮らすには十分だった。

「職探しは大変でしたね、身辺整理が完了したとき54歳だったでしょ。年齢不問になっているところでも不採用でした」

葛西さんは甲種危険物取扱者と1級ボイラー技士の資格を持っているが、これを活かせる仕事は得られなかった。

「自分も経営者だったから分かります。国家資格を持っていても、わざわざ年齢の高い人を採用しようとは思いませんよ。まして元社長なんて使い難いだろうし」

得られた職は派遣での倉庫内仕分け作業。奥さんは和食レストランのお運びさんのパート。これで4カ月食い繋いだ。

「今は、わたしは宅配会社の契約社員に採用してもらえまして、地域センターで集荷と配送を担当しています。妻もビル管理会社の契約社員になり、新宿のオフィスビルでクリーニングスタッフとして働いている」

葛西さんも奥さんも50代半ばだから贅沢なんて言っていられない。1年ごとの契約社員だが、とりあえず社会保険に加入できたのはありがたいと思っている。

「現在の収入ですか? 月収でわたしが約20万円で妻が17万円ぐらいですね。2人合わせた手取りは30万円ほど、普通に暮らしていけますよ」

親戚に毎月2万円ずつ借金返済をしている

金融機関などからの借金は消滅したが、破綻処理に不足で親族に融通してもらったものは返し続けている。

「妹も義兄も催促なしのあるとき払いでよいと言ってくれているのですが、こちらの誠意として毎月2万円ずつ返しています」

妹から借りたのは100万円で義兄に助けてもらったのは80万円。毎月計4万円返しているが、返し終わるのには3年9カ月かかる。

「もう3分の1は返しているからあと2年半。これだけは欠かさずきちんとやらないと。普通、こういうことがあると身内でも疎遠になってしまったり、絶縁状態になってしまったりすることが多いけど、わたしの場合はそういうことはなかった。何かと気に掛けてくれるので感謝しているんですよ」