五感の枠を取り払って創造の摂理を探求する

河南順一『Think Disruption アップルで学んだ「破壊的イノベーション」の再現性』(KADOKAWA)

スティーブ・ジョブズが率いるチームの議論や意思決定では常に、数値では解析したり測定したりできないものをとらえる感性や能力が求められました。アップルのディスラプションの展開における思考に、しばしば霊感や啓示が、大きな役割を果たしていたのです。

破壊的イノベーションでは、さまざまな部署・知識・バックグラウンド・考え・経験を持った多様な人たちが一緒に問題を考え、解決策を議論することが重要であることが指摘され、それはデザイン思考のアプローチの核にもなっています。

従来の枠組みにとらわれることなく、左脳を使って論理的に分析すること以上に、右脳を使って創造的に考えなければなりません。人間の五感だけでなく第六感から霊感までも総動員するのです。霊感や啓示と聞くと違和感を覚えるかもしれませんが、五感の枠を取り払って創造の摂理を探求し、人間が持つ可能性や資質を深く掘り下げるところに、科学や論理では超えにくい「閾値」を破るディスラプター思考のヒントと本質があるのです。

ジョブズは禅を思考と感性の基軸とした

スティーブはプライベートを会社で語ることがないので、直接本人に確認したことはありませんが、スティーブ自身は仏教に傾倒し、曹洞宗の僧侶である乙川弘文氏から、禅について、またデザインのコンセプトとは何かということについても手ほどきを受けたと言います。信仰の対象であったかどうかは別にして、禅の心を信奉し、それがスティーブの思考と感性の基軸となっていたことは確かです。

スティーブは何度も京都を訪れていますが、石庭や禅寺で彼が見せる表情は、映像や書籍には一切残されていません。しかし、あるとき、これがスティーブの感性が膨らむときに現れる表情に違いないと思った出来事がありました。日本がホストとなり、箱根の強羅花壇でアジアパシフィック地域のビジネスレビュー会議を開催したときのこと。Think differentでアップルのブランドが力を取り戻し、iMacも軌道に乗った状況で、参加者の表情は穏やかでした。