2019年のノーベル化学賞に旭化成の吉野彰名誉フェロー(71)ら3人が選ばれました。吉野氏はスマートフォンや電気自動車などに広く使われている「リチウムイオン電池」の開発者です。プレジデント誌では2011年8月15日号の記事「世界を変える『これが日本人の金脈技術だ』」で吉野氏を取材していました。今回、その記事を特別に再掲載します――。
写真=時事通信フォト
ノーベル化学賞の受賞決定から一夜明け、旭化成の社員らから祝福される吉野彰氏=2019年10月10日午前、東京都千代田区

リチウムイオン電池の技術が生んだベンチャー

大和ハウス工業やシャープなどが出資する蓄電池製造のベンチャー企業、エリーパワー(東京・品川)。3.11の東日本大震災を契機に、移動式大型リチウムイオン蓄電池「パワーイレ」の引き合いが急増している。

パワーイレ一台で最大1000ワットの消費電力に対応することができ、パソコンなどOA機器だけでなく、冷蔵庫などの大型家電の電力として利用することも可能。蓄電能力は2キロワット時にのぼり、一般家庭の1日の平均電気使用量(10キロワット時)の2割程度をまかなうことができる。現在、エリーパワーはオフィスや工場などの法人向けに月3万6000円のリース契約による販売をしている。今秋には家庭電源用としても売り出す計画で、価格は100万円台後半を見込む。

エリーパワーを創業したのは、元銀行マンの吉田博一社長だ。97年に住友銀行(現三井住友銀行)を副頭取で退任後、三井住友銀ファイナンス&リースの社長、会長を歴任した。その後、慶應義塾大学のEVプロジェクトに参画し、同社を立ち上げたときはすでに69歳だった。「とにかく他人と違うことをやりたい」という一念で2006年9月にわずか4人の同志で創業にこぎ着けた変わり種だ。今やリチウムイオン電池の技術は、このようなベンチャー企業も生み出している。