プリンタメーカーが慌ててUSBポートに対応した
1つはFDD(フロッピーディスクドライブ)でした。まだまだFDDユーザが多かった時代ですが、「そもそもインターネットの時代になれば、データの転送もインターネット経由で行われるようになる」という確信から、バッサリと切り捨てたのです。ちなみに、当時のインターネット普及率は、アメリカでさえせいぜい1割程度でした。
もう1つは、SCSIなどの標準的なインターフェース。その代わりに当時としては先進的だったUSBポートを採用しています。プリンタメーカー各社はコストを優先し、USBポートを搭載したプリンタを製品化していなかったため、「プリンタがつなげられないパソコンを誰が買うんだ」という声が上がりました。しかし、結果的にはiMacの発表から発売までの短期間で、反響の大きさに驚いたメーカーが急ピッチでUSB対応のプリンタを製品化。アナリストの予想は見事に外れたのです。
展示場で誰もがiMacを撫で回していた
iMacはデザイン的にも、前代未聞でした。従来のパーソナルコンピュータはどのメーカーのものもベージュ色で角ばっていましたが、iMacはおよそコンピュータらしくない、丸っこい半透明のポリカーボネート素材の筐体で、オーストラリアにあるビーチにちなんで名づけられたボンダイブルーの色をまとっていました。
余計なものを取っ払い、配線もスッキリした一体型のレトロフューチャーなデザイン。コンピュータに馴染みのないコンシューマをターゲットにした、インターネット時代を切り開くまったく新しいコンセプトのコンピュータでした。
iMacの発表が行われたフリントセンターや、日本での発表会場や、1998年8月のマックワールド・ニューヨークでの展示場を見ていて気がつきました。このエクスペリエンスを重視したデザインは、ほかのコンピュータには見られない特異な現象を生み出していました。iMacの展示には、どの会場でもひと目見ようとする人たちが長い行列を作りました。自分の番が来てiMacと対面すると、全員が共通してとる行動があったのです。
展示されたiMacに触れて、そのボディを撫で回すのです。まず両手でiMacを抱き込むようにして、上から後ろへ、横から下へ。ポリカーボネートの筐体のふっくらした曲面が滑面でないので、手のひらに残るかすかな抵抗も心地よかったのかもしれません。来場者の老若男女、人種、国籍、言語の違いに関係なく、大人も子供も、iMacをいとおしげに撫で回す表情には穏やかな笑みが浮かんでいました。