今、マンガ誌やネット上では年間1000作以上の「新連載マンガ」が発表されている。そのすべてを読む元書店員の東西サキさんは「10年ほど前に比べて、大きく2つの変化が起きている。それぞれの変化を象徴するのが『鬼滅の刃』と『ボーイズ・ラン・ザ・ライオット』だ」という——。

年間1000作以上の「新連載」を全部読む「マンガのソムリエ」

年間1000作以上——。これは現在、紙媒体のマンガ誌やネット上で1年間に出る新連載のマンガ作品の数である。その多さに驚くが、もっと驚くのは、その全てを読んでいる人物がいることだ。マンガを溺愛する元書店員・東西(とうざい)サキさんである。

元書店員・東西サキさん
元書店員・東西サキさん

書店員(コミックフロア)として16年勤務。10年ほど前、電子書籍の波が来たことで、紙媒体だけではマンガに何が起きているかを把握できなくなると感じ、2017年に退社した。現在はフリーの「マンガのソムリエ」として活動している。

新旧のマンガ作品に精通するだけでなく、書店員時代、受注管理を担当していた経験を生かし、知り合った漫画家や、出版社の営業・編集担当者から得た知見などをもとに、「マンガ新連載研究会」として「マンガ家の卵」などの相談に乗っている。その人の個性や作風にマッチした持ち込み先の出版社・編集担当者を紹介しているのだ。

2月、その東西さんを含め、マンガ業界とコアなマンガ読者をざわつかせるニュースがあった。少女マンガ誌『花とゆめ』(白泉社)が、「電子少年マンガ誌を創刊する」と発表したのだ。

つまり、出版社がネットで新規にマンガサイトを出す。

ついに少女マンガ誌が少年マンガ誌に進出した

『花とゆめ』発の電子少年マンガ誌告知ビジュアル
白泉社が刊行する少女マンガ誌『花とゆめ』が、電子少年マンガ雑誌の刊行を決定

なぜ、これがニュースになるのかと不思議に思う向きも多いだろう。そもそも、男性の場合、このマンガ誌を一度も読んだことのない方が大半だと思うが、『花とゆめ』は幾多の名作を送り出してきた老舗少女雑誌だ。これまで少女マンガと少年マンガは作風も読者層も異なるものだった。だが、東西さんは言う。

「少女マンガ誌が少年マンガ誌に進出することは不思議でも何でもない時代の流れです。少年マンガとか少女マンガとかのカテゴリー分けにはもう意味がないんですよ」

なぜそう言えるのか。男女の棲み分けがあった時代に育った世代にはなんのことだかわからない。そして、マンガの最前線はどうなっていて、いま注目すべき作品はどのようなものか。

ソムリエの意見を聞く前に、現状をもう少し詳しく把握したい。