少年誌、少女誌、青年誌、ネット…1カ月に100~160作の新連載
「まず、新連載マンガは少年誌、少女誌、青年誌、ネットを合わせて1カ月に100~160作品出ます。年間でいうとざっと1500連載が始まる勘定です(ネットでの旧作の電書化を含む)」
あまりにも多くて購入しきれない東西さんは、マンガ喫茶をはしごして新連載チェックしている。当然、人気作品が掲載されているメジャーなマンガ誌には目を通し、マイナーな雑誌でもこれはと思った新連載はその後を追いかける。単行本もフォローする。疲れたときも「自分の好きな作品をじっくり読んで心を癒やしています」というから、どうやら「ソムリエ」の肩書に嘘はないだろう。
年1000以上の新連載が出るということは、完結もしくは打ち切りとなる作品も多いことになる。
「新陳代謝は激しいものがあります。とくにネットでは、始まったと思ったらすぐに姿を消してしまう作品も珍しくありません。サイクルが早くなっているのは確かですが、それでも大量の新連載の中でしっかり読者に支持される作品もあるのです」
東西さんによれば、読者のニーズを掘り起こし、あるいはニーズを敏感に嗅ぎ取って制作されるマンガは、時代に合わせて刻々と変化しているという。どんな「変化」なのか。
人気マンガ「昔とココが違う」1:主人公の設定
ヒーローより社会的弱者やマイノリティを支持
最初に挙げられるのは「主人公の設定」だ。数年前までは、主人公の「幸せの基準」は、世間の平均よりもとびぬけて高かった。読者はそうした「スーパーな存在」を目指し、その階段を上がっていくことを望み、主人公を応援していた。マンガの主人公はいわば、読者の憧れ=ヒーローだったのだ。
一方、今どきのマンガにはよりリアリティが求められるようになった。読者の共感を集め、支持されやすい作品とは、例えば、主人公が自分(読者)と同じように貧困や少数派という逆境的立場に身を置きながら、せめて「周囲のみんな」と同じようになりたいという願望を抱えて必死に生きるストーリーだ。
つまり、世間の「平均」レベルを目指している社会的弱者なマイノリティの主人公に魅力を感じる。かつてのように雲の上の存在のヒーローに共感する時代は去ったのだ。
『週刊少年ジャンプ』(集英社)で2016年11月号から連載され大ヒットしている『鬼滅の刃(きめつのやいば)』。主人公が家族を殺した「鬼」と呼ばれる敵や鬼と化した妹を人間に戻す方法を探すために戦う姿を描く。
主人公が目指すのは鬼退治の名人ではなく、鬼に襲われる以前の、穏やかな日々を取り戻すことだ。アクションが派手で、グロテスクな描写も頻出するが、主人公は心優しき真面目な少年である。
一方、少女マンガの主人公にも変化が訪れている。少女マンガは伝統的に「新しいもの」に敏感で、「時代の最先端」を扱う作品が多い。今なら例えば、自分のジェンダーに対して思い悩む主人公の作品が人気だ。小学生をメインターゲットとする『りぼん』(集英社)でもそうしたジェンダー問題を抱えるヒロインが読者の人気となっている「さよならミニスカート」という作品が登場した。
主人公が限界なくどこまでも成長し続ける、どこか荒唐無稽なアクションやファンタジーではなく、「リアルな物語」として読まれているという。