「なぜ」を5回繰り返すことの意義
日々の課題をこなしていくことも挑戦である。しかし、忙しい毎日のなかにあって、その先の課題認識を怠らない。トヨタで語り継がれてきた言葉に「『なぜ』を5回繰り返せ」というものがあるという(若松義人『トヨタの上司は現場で何を伝えているか』PHP新書、2007年、154-155頁)。
なぜを繰り返すことの意義は、近視眼を脱することにつながることである。そこで広げた視野から、順調に見える事業状況においても問題は山積みであることが組織に共有されていく。だからトヨタは、危機をすばやくチャンスと受け止めることができるのだろう。
注文が激減する。顧客の姿が消える。しかし、この状況が未来永劫続くわけではない。当面の財務上の備えに怠りはない。未来のために今やっておくべきことは多くある。不安がないわけではないが、やるべきことを切り替えて、今を活かせば、危機はチャンスとなる。この備えを平時から行っておくことに、トヨタという日本企業が培ってきた経営の知恵を見ることができる。
自動車産業は2000年代に入る頃から、グローバルな需要の急増に直面する。それまでは日米欧の先進国が中心だった市場が、勃興する新興国へと広がり、成熟期を迎えたかと思われていた自動車産業は成長対応へと舵を切ることを迫られる。振り返るとリーマンショックは、このグローバル成長の時代の踊り場だった。そこでトヨタはギアを切り替え、素早く体勢を整え直そうとしていた。
現在の自動車産業の課題は10年前とは異なる。自動車製造の枠組みを超えた、移動にかかわるビジネス・エコシステムの一大転換が迫っている。平時にはできなかった実験的な活動を前倒しで行うには今はチャンスなのかもしれない。
私たちもそうだ。問題意識に片隅には感じていても、取り組めていなかったことは多くなる。日本企業の先人から学ぶべきことは少なくない。