アマゾンコイン、アリババコインが出現

数多くある仮想通貨のなかで、覇権を制するのは誰でしょうか。

間違いなく、巨大IT企業でしょう。私の考えでは、世界に影響を及ぼす仮想通貨を立ち上げる最初の企業は、アマゾン、もしくはアマゾンとしのぎを削っているアリババです。

いずれも企業統治の枠内に膨大な数の商品を扱う、巨大な市場を持っているからです。アマゾンは有料会員だけでも1億人を超え、もはや一国家の規模に及んでいます。

さらに、そのアマゾンを遥かに超え、全世界に数十億のユーザーを持つフェイスブックが19年、仮想通貨「リブラ」の構想を発表しました。ドルやユーロなどの法定通貨を裏付け資産とすることで安定した価値を保つ仕組みです。各国政府や金融当局は、政府の特権である通貨発行権が脅かされることを懸念し、神経をとがらせています。

はたしてフェイスブックは、国家の枠組みを超える通貨革命を起こせるのでしょうか。私の予測では、NOです。フェイスブックは、アマゾンやアリババと違って、ユーザーに対して売る「モノ」がありません。通貨はモノの売買に必要なのであって、商品を持たない企業が通貨を発行することには、限界が出てくるでしょう。さらに、政府はこの点を槍玉に挙げ、リブラや同類の通貨の発行を徹底的に阻止するでしょう。

ユーロ史から考えるデジタル通貨の可能性

そもそも仮想通貨が、現行の通貨に取って代わることはあるでしょうか。

私はユーロの誕生に深く関わっており、その経験から、新しい通貨が普及するためには3つの条件が必要だと考えています。第1に「関税の撤廃」、第2に「商慣習の統一」、第3に「貨幣価値の安定」です。

ユーロ導入においては、ユーロ圏内での為替相場リスクがなくなり、さらに、第1条件の「関税の撤廃」によって、域内のモノの移動の自由が担保されました。第2条件、「商慣習の統一」については、関税以外の貿易障壁の排除に腐心しました。この2つの条件は、インターネットを通じて取引される仮想通貨の場合はクリアされます。

一方で、仮想通貨を導入する場合、第3条件の、「貨幣価値の安定」は実現が見込めないでしょう。なぜかというと、仮想通貨が増えるにつれ、仮想通貨間での価値が発行企業の企業価値と連動し上下してしまいます。結果的に、仮想通貨内での物価が安定せず、安定した成長もできなくなるからです。つまり、安定させるためには、価値を担保する絶対的な貨幣が必要になります。現在の「為替の自由化」と同じ理屈です。