本来なら全世代型検討会議を設置して各種措置を講ずる必要はないのだが、「日々改善に努めるのが政府の役割」(厚労省年金局)との観点から財政検証が実施された。そして、そこに見直すべき項目がオプションという形で盛り込まれたのである。
具体的には図表2にあるオプションAとオプションBの2つがある。Aは厚生年金の適用拡大で、①125万人ベース、②325万人ベース、③1050万人の3通りの選択肢をピックアップ
結論は2018年の暮れにほぼ固まっていた
オプションBは、①基礎年金の拠出期間延長、②在職老齢年金の見直し、③厚生年金の加入年齢の上限引き上げ、④就労延長と受給開始時期の選択的延長、⑤は①から④の選択肢をすべて実施した場合である。
オプションBの試算結果を示したものが図表3である。図表の一番右側、最下段の⑤にあるように、これを財政検証のケースⅠに当てはめると所得代替率は最高で114%に改善する。このケースが実現すれば年金受給者は現役世代の平均所得を14%上回る給付金を受け取ることになる。まさにバラ色の未来図である。
安倍首相の施政方針演説は、この試算がベースになっている。検討会議の結論を待つまでもないのである。昨年暮れにまとまった同会議の中間報告には年金改革として、①受給開始時期の選択的拡大、②厚生年金の適用範囲の拡大、③在職老齢年金制度の見直し、④70歳までの就労機会の確保といった施策が入っている。なんのことはない財政検証の「オプション試算」がほぼすべて盛り込まれたのである。
検討会議は財政検証のオプションを丸ごと容認した。では、財政検証に上記オプションを忍び込ませたのは誰か。答えは簡単に見つかった。
財政検証を行うにあたって厚労省は2018年に社会保障審議会年金部会を開催、財政検証を行うにあたっての「基本的枠組み」を決めている。その中に、①厚生年金の適用拡大、②現行の賃金要件や企業規模要件の見直し、③保険料の拠出期間の延長、④受給開始年齢の選択的引き上げ、⑤厚生年金の加入上限の引き上げ等について、財政検証を行うよう求めているのである。
社会保障の専門家で構成された年金部会は、ここで年金改革の方向性を示したのである。年金部会の決めた方針にしたがって厚労省は財政検証を行い、これを受けて検討会議がコンフィデンシャルに政策として追認した。結論は2018年の暮れにほぼ固まっていたのである。