この裏で、年金改革の進むべき方向性を示したのが財政検証である。検討会議は財政検証に盛り込まれた方策をなぞっただけである。ここに専門家が指摘する「結論ありき」の論拠がある。

最大のチャレンジの中身は財政検証の焼き直し

安倍首相は1月20日、通常国会の開幕にあたって施政方針演説を行った。その中で社会保障改革について次のように述べている。

「この春から、大企業では、同一労働同一賃金がスタートします。正規と非正規の壁がなくなる中で、パートの皆さんへの厚生年金の適用をさらに広げてまいります」
「(厚生年金の対象者を)従業員50人を超える中小企業まで段階的に拡大します」
「高齢者のうち、8割の方が、65歳を超えても働きたいと願っておられます。働く意欲のある皆さんに、70歳までの就業機会を確保します」

健康寿命の延伸とともに健康で能力があり、働く意欲を持っている健康な高齢者が増えている。そうした人たちに働く機会を提供する。

同時に、現役世代や中小企業で働くアルバイトやパートなど、これまで厚生年金に加入していなかった就職氷河期世代をはじめ、無年金の人たちにも厚生年金への加入の道を開く。幼児を抱える現役世代を支援しながら、無年金層や低所得者層に厚生年金への加入を広めていく。まさに「全世代型」社会保障への転換である。

一見これは安倍首相の独自政策のように見える。だが、こうした考え方は昨年8月に発表された財政検証にすべて盛り込まれている。「最大のチャレンジ」は、財政検証の焼き直しにすぎないのである。

最悪ケースでは2052年度に年金積立金がゼロに

ここで改めて財政検証に立ち返ってみたい。財政検証で政府は何をやっているのか。一言でいえば将来の経済状態を仮定し、物価や賃金の上昇率、運用利回りなど各種のパラメーター(変数)を入れ替えながら、所得代替率(※1)の将来的な推移を推計しているのである。

財政検証の結果をまとめたものが図表1である。この図表だけで検証結果を読み取るのは専門家でもない限り簡単ではない。詳しく知りたい方は厚労省のホームページにアクセスし、「今後の社会保障改革について」などの資料に目を通したほうがいい。

(※1)公的年金の給付水準を示す指標。現役男子の平均手取り収入額に対する年金額の比率