「改善ではなく改革を行う」とぶち上げたが…
新型肺炎が世界中で猛威を振るう中で、安倍晋三首相が「最大のチャレンジ」とぶち上げた「全世代型社会保障改革」をめぐる議論が霞んでいる。だが、専門家はこうした見方を否定する。「最初から結論は決まっていた。議論は霞んだわけではなく最初から盛り上がっていなかった」と。本当にそうなのか、昨年行われた年金の「財政検証」を丁寧に読み解くと、その答えが見えてくる。
社会保障に全世代型という発想を持ち込んだのは、2012年に設置された「社会保障制度改革国民会議」である。安倍首相就任を受けた翌年8月に発表された報告書には「高齢者世代を給付の対象とする社会保障から、切れ目なく全世代を対象とする社会保障への転換を目指すべきである」との文言が盛り込まれた。
安倍内閣はスタート当初から全世代型の社会保障への転換を求められていたのである。この流れが消費増税に合わせた幼児教育・保育の無償化に繋がる。あわせて高等教育の一部無償化や、所得の低い高齢者に対して月額5000円を給付する制度もスタートした。
昨年8月に設置された「全世代型社会保障検討会議」は、こうした流れを加速する使命を帯びて登場した。この会議の初会合で安倍首相は、「社会保障制度の改善ではなく改革を行う」とぶち上げたのである。
わずか3カ月で結論が出た「最大のチャレンジ」の中身
ではなぜ昨年、この会議が設置されたか。ほかでもない、5年ごとに義務づけられている年金の「財政検証」を行う年だからである。年金の財政検証に併せて医療、介護を含む全世代型改革をアピールする。これが検討会議の狙いだった。
不幸なことにその会議が、降って湧いた新型肺炎問題でかき消されてしまったことは不運としか言いようがない。だが、よくみると年金改革の方向性は検討会議のはるか以前に決まっていた。財政検証が「結論ありき」の結論を作っていたのである。
昨年9月20日に設置されたあと検討会議は、3カ月後の12月19日には早くも中間報告を取りまとめている。「最大のチャレンジ」である改革の大枠は、たった3カ月で固まったのである。