まるで薬の宣伝をするかのような番組

そもそもインフルエンザ治療に抗ウイルス薬を処方すべきか否かの議論が臨床医の間でも存在するのだから、番組で特集を組むなら、視聴者にはその議論の存在から知らせるべきだと思う。しかし番組では抗ウイルス薬使用を前提として、さらに特定の薬の商品名を取り上げ、その宣伝をするかのようなコメントを行う医師さえも登場するため、とても驚かされる。

抗インフルエンザウイルス薬には、内服薬で原則5日間服用するタミフル、吸入薬で原則5日間吸入するリレンザ、1日単回吸入するだけのイナビル、点滴注射薬のラピアクタなどが保険適用とされていたが、2018年3月からゾフルーザという新薬が適用となった。

ゾフルーザは、今までの抗インフルエンザウイルス薬とは作用機序(仕組み)が異なることと、1回の内服で治療が完結するという簡便性から、一気に使用する医師が増え、2018年10~12月の国内シェアは2位以下を大きく引き離す47%と一躍トップとなった。「夢の新薬登場か」と情報バラエティ番組でも多く取り上げられ、医療機関には「ゾフルーザでお願いします」と銘柄指定する患者さんも後を絶たなかった。

ゾフルーザの耐性ウイルス問題

このゾフルーザ騒動は、「安易な使用は控えるべき。当院では採用しない」という冷静な感染症専門医の勇気ある提言と、ゾフルーザを投与された患者さんからの検出が相次いだ耐性ウイルスの発覚により、徐々に積極的に処方する医師が減ったことで、ようやく沈静化をみた。

やや専門的になるが、このゾフルーザの耐性ウイルス問題についても、少し説明しておきたい。(*)参考資料:「バロキサビル(ゾフルーザ)を季節性インフルエンザ治療に使うことはできない」(菅谷憲夫、週刊日本医事新報、2019年6月1週号)

実は、このゾフルーザ(一般名バロキサビル マルボキシル)は治験時から高い確率で耐性が生じることが指摘されていた。成人では、A香港型陽性者のうち10.9%(36/330)、2009年に「新型インフルエンザ」として流行したウイルス株の陽性者で3.6%(4/112)に耐性ウイルスが検出されたとのことだ。前者についてはタミフルなどのノイラミニダーゼ阻害薬では耐性ウイルスが発生したことはなく、後者についても、成人で0.5%程度の耐性変異であることから、これらはかなり高い数字だといえる。