安易に使うべきでないゾフルーザ

さらに問題なのは、ゾフルーザ投与1日後に、いったん著しく低下するインフルエンザウイルスの力価(ウイルスが細胞に感染できる最低濃度)が、耐性ウイルスが出ると、投与3日後から、プラセボ(偽薬)を使用した場合を上回るレベルまで再上昇することだ。いったん感染力がおさまったように見えて、実はその後に感染力が再燃していたとでもいえばいいだろうか。いったん熱が下がったところで、職場や学校に行ってしまうと耐性ウイルスを周囲にバラまいてしまうことになる。

私自身が患者さんにゾフルーザを処方したことは、1例を除いてない。その1例は、患者さんからの強い希望で仕方なく行ったものだ。逆に、他医でゾフルーザを処方され、服用して2~3日後にいったん下がったはずの熱が再度上がった、あるいはまったく症状が改善せず、当院に転医して精査したところ肺炎を併発していた、という例を数例経験した。これらの知見を踏まえて、私は今のところ、ゾフルーザを積極的に処方することは適切ではないと考えている。

そもそも日本の医療現場では、検査でインフルエンザとの診断がつけば、ほぼ全例で当たり前のように抗インフルエンザウイルス薬が使用されているが、これは決して国際的スタンダードではない。今から10年以上前の時点でさえ、全世界のタミフルの実に約75%が日本で消費されていたのだ(IT mediaビジネスONLiNE)。

薬が過剰に処方される日本

米国感染症学会のガイドラインは、慢性疾患や免疫低下状態の人、妊婦及び産後2週間以内の女性あるいは2歳未満および65歳以上を除いては、抗インフルエンザウイルス薬の積極的使用を推奨していない。さらに発症して2日以上経過している人への使用も原則考慮されない。

このガイドラインを踏まえれば、現在の日本ではインフルエンザ治療に際して過剰な処方が日常的に行われているといってもいいだろう。

テレビの情報が誘発する薬剤の過剰処方は、抗インフルエンザ薬に限ったことではない。

「その症状、もしかしたら○○かもしれません。思い当たる方は、すぐお医者さんへ。○○を検索」

このようなテレビCMを見たことはあるだろうか。薬剤の商品名は流れないが、これは製薬会社のCMだ。CMを通じて、視聴者の心あたりを喚起するような症状を提示すれば、不安を感じた視聴者は医療機関を受診する。

事前に製薬会社の担当者が医師に対して「CMを見て受診した患者さんには、ぜひ当社の△△という商品の処方をご検討ください」と頼んでおけば、その製薬会社の商品が売れるというカラクリだ。典型的なステルスマーケティングといえるだろう。