日本で感染症が流行しやすいのは、ウイルスの型や気候のせいだけではない。医師の木村知氏は、「体調不良で休むことに罪悪感を持ち、無理して出社する人が多い。周囲の人も、カゼくらいで休むな、カゼを引くなんて自己管理がなっていないからだ、と考えます。カゼやインフルエンザが流行する原因は、私たちの社会にもあるのです」という——。

※本稿は、木村知『病気は社会が引き起こす』(角川新書)の一部を再編集したものです。

マスクを身に着けて出勤する人々
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まったく無意味な「陰性証明書」

昨年の冬、発熱した高校生が母親に連れられてクリニックにやってきた。症状が典型的なインフルエンザではなかったこともあり迅速検査を行ったところ、結果は陰性だった。すると母親から、その高校が独自に作成した「インフルエンザの疑い通院証明書 インフルエンザの疑いで検査を受けましたが、その結果は陰性でした」と記された書類にサインするようにお願いされた。

未だにこのような無意味な「陰性証明書」を医療機関に書かせる学校があったのか、と驚いた私はその高校に連絡した。校長にこの書類の意味についてたずねると、「皆勤賞狙いの子たちが、熱が出ても無理をして学校に来てしまうので、熱が出たらすぐに医療機関に行くよう指導することにした。検査で陽性ならインフルエンザと確定するので、休んでも皆勤賞に影響は出ないが、陰性であった子でもその通院と検査のために遅刻や早退、休んだ場合は、その日に限って皆勤賞に影響しないようにした。そのための書類である」

ということであった。この対策は非常に危険だ。

私は校長に、インフルエンザ検査の結果を過信してはいけない旨を説明しつつ、学校の運営に口を挟む意図はないが、皆勤賞は決して好ましい制度とは思えない、と伝えた。なぜならこの制度があることによって、体調不良でも無理をして登校するという生徒が後を絶たないからだ。