皆勤賞が歪んだ社会の根源だ
皆勤賞については、「体調が万全で元気で過ごせた」ということに対して一定の評価を与え表彰するという意味で、その趣旨を理解できないわけではない。しかしそのために無理をしたり、書類を整えるべく医療機関を奔走したりと、今や本来の趣旨からかけ離れた歪んだ制度になってしまっているのではないだろうか。
さらにこのような健康に関して個人を表彰する制度は、健康に過ごせなかった人や、健康に過ごしたくても叶わない人を表彰制度から排除することになり、差別にもつながりかねない。学校という組織が表彰するのではなく、「よく元気でやり遂げたね」と親が褒めてあげることが一番ではないだろうか。
カゼやインフルエンザをはじめとした感染症への対処法や対策は「休む」ことにつきる。「風邪でも、絶対に休めないあなたへ。」という市販の総合感冒薬のキャッチコピーはご存じだろう。「カゼを治せる薬はない」「カゼを引いてしまったら、効く薬などないのだから焦らず寝てください」という私の考えとは真っ向対立するキャッチコピーだ。カゼを引いた人が見れば、休む必要がない薬の存在に希望を持ってしまうかもしれない。
休むことに罪悪感を持つ日本人
しかし実際、この総合感冒薬のパッケージを見てみれば、ほかの市販薬と含まれている成分に大きな違いがないことに気づくだろう。つまり、このCMのキャッチコピーは、カゼで苦しむ消費者に休むことなく治せる薬の存在を錯覚させ、騙しているといっても過言ではないものだ。医師の私から見れば、詐欺、薬事法(*)違反ではないかとさえ思うのだが、行政からのお咎めもないのか使われ続けている。
(*)薬事法第66条:何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器又は再生医療等製品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。
この商品広告の違法性についてはこれ以上追及しないが、皮肉にもこのキャッチコピーが、私たち日本人の特異性を端的かつ的確に表現しているという点では、極めて秀逸なCMだ。
カゼを引いたら休むべきだとはいったが、「カゼを引いても休めない」という人が多数派であるということを私も知らないわけではない。
無理をして職場に行ったところで、集中力も続かず仕事にもならないし、咳込んだら同僚や仕事相手も不快にさせてしまう。しかし、ここで休んでしまうと、仲間に迷惑をかけてしまうから、やっぱり今日は絶対に休めない。
「風邪でも、絶対に休めないあなたへ。」
このキャッチコピーが訴求しているのは、まさにこのような消費者に対してであろう。
よく「日本人は勤勉だ」といわれる。私は勤勉というよりも、むしろ休むという行為について、罪悪感を持っているのではないだろうかと思っている。自分が休むと人に迷惑をかけると考えてしまうその心の深層には、休むの対義語が「働く」であって、その働くという言葉には、休むのほか、遊ぶ、怠けるという対義語が存在するとの認識が無意識下にあるのかもしれない。