「今年のインフルは熱が出ない」とテレビが発信した結果…

専門家としてコメントしている医師も、必ずしも番組で取り上げている疾患や話題に関する専門家であるとは限らない。数年前、インフルエンザの流行期にある情報バラエティ番組を観ていたところ、たまたま出身大学の先輩外科医が「インフルエンザに詳しい○○クリニックの○○先生」という肩書きで画面に登場し、インフルエンザに関する解説をしていた。

当時開業したばかりという話は聞いていたが、その直前までバリバリの外科医としてオペをしていた方だった。番組制作者は、いったい視聴者のことをどう思っているのだろうか。

このような番組のあり方に違和感と不信感を抱いていた私は、次のようにツイッターに投稿した。

「今年のインフルは熱が出ない、とTVでやっていたので怖くて来た」という「無症状の患者さん」が急増。TVを視てないので主旨が解らないが、恐怖煽って無症状の人を一番感染リスクの高い医療機関に誘導するのではなく、微熱でも体調不良の人は学校や職場を休むこと、という「常識」を報じてもらいたい。(2018年1月19日)

この投稿は4万回以上リツイート(ほかのユーザーが行った投稿を、自分のフォロワーに拡散するために投稿すること)され、のべ1000万回以上閲覧された。反響の大きさは、多くの人が関心を持ったからだと思う。視聴者は正しい情報を望んでいるのだ。番組制作担当者には、恐怖と不安を煽る番組構成になっていないか、内容は適正か、かえってインフルエンザの流行を助長してしまっていないか、ぜひ慎重に考えていただきたい。これは今後、新型コロナウイルスの流行が拡大してきたときにも当てはまる懸念である。

インフルエンザは自然治癒する病気である

番組制作者にしてみれば、冬場のインフルエンザ情報は格好の題材だ。流行情報や、典型的なインフルエンザの症状に関する情報はたしかに有益だろう。しかしこれらの番組が、インフルエンザが自然治癒する疾患であるという情報提供を行ったことがあるかといえば、私の知る限りにおいては聞いたことがない。

診察時にインフルエンザが自然治癒する疾患であるとの説明をすると、「タミフル飲まないと治らないんじゃないんですか」

と、ほとんどの人に驚かれるのも無理ないことだ。テレビでは、その事実を教えてくれないからだ。タミフルは、インフルエンザウイルスを殺してしまう薬ではなく、人体の細胞内に侵入してきたウイルスが、その細胞を利用して新たなウイルスを自己複製し、細胞外へと拡がっていくことを感染後の初期段階で抑えるものに過ぎない。何も服用しない場合に比べて発熱期間が1~2日短くなる程度だ。

熱は若干早めに下がるものの、その時点では体内から完全にウイルスが排除されている状態ではなく、他人に感染させるリスクがある。仮に1~2日早めに解熱したにせよ、社会復帰に要する期間は何も服用しない場合とほぼ同じだ。タミフルを飲んでも飲まなくても、発症から1週間程度は人に接触しないで自宅療養しなければならない。