「なぜAC/DCは12枚も同じアルバムを出すんだ?」

【山口】あれは、明らかにスキルではないですね。だって、どうすれば止まって見えるのか自分でもわからないんです。「止まって見えちゃうんだもん」としか言いようがない。目をつぶってバットを振ったら、場外ホームランだったという感じです。だから怖い面もあったんですね。センスって果たして恒久的なものなのか、それとも4、5年しかもたない性質のものなのかって……。

【楠木】CMプランナーは外的なものとの相互作用で作品をつくっていく仕事だから、旬というか賞味期限が決まってしまうという特殊な面があると思います。

楠木建、山口周『「仕事ができる」とはどういうことか?』(宝島社)

仕事ができるとはどういうことか?』の中でもお話ししましたが、僕が「こうありたい」と思っているのは、ピークの時のハマり方をちょっと抑制してでも長続きするようなスタイルです。モデルにしているのはAC/DCというバンド(1973年に結成され現在も活動を継続している)です。アンガス・ヤングというギタリストが「なぜAC/DCは12枚も同じアルバムを出すんだ?」と質問されて「いや違う。13枚だ!」と答えたという逸話があるのですが、たしかに、傍から見れば彼らは何十年も同じ音楽をやっている。僕が思うに、あれは意識的に抑えている面があると思うんです。

【山口】別な言い方をすれば、マーケティングをしないということかもしれませんね。

【楠木】マーケットからのニーズに対して、フルスロットルで応えないと言ってもいい。たとえば山口さんの本が大ベストセラーになって山口さんの本をもっと読みたいという人が急激に増えてきたとき、それにフルスロットルで応えようとすると、それこそ『年収が10倍になるアートの見方』を出すことになってしまう。しかし、われわれのような仕事の場合、それをやらないという選択が定説な気がする。

無印良品の戦略には「ジワーッと行く」という原則がある

【山口】小室哲哉さんと坂本龍一さんの違いといってもいいかもしれませんね。小室さんの本当のピークはやはり4~5年でしたが、坂本さんはずっと変わらない。ボリュームゾーンとして顧客がついているわけではないけれど、世界中の国々に一定のファンが散らばっている。

撮影=プレジデントオンライン編集部
一橋大学大学院教授の楠木建さん、コンサルタントの山口周さん

【楠木】そのファンを積分していくと、けっこう大きなボリュームになる。

【山口】一方の小室さんは1億7000万枚以上のCDを売り上げたわけですが、急激に時代にフィットしなくなってしまいました。

【楠木】そういうレベルになるともはや自分自身がひとつの「産業」みたいになってしまって、小室哲哉で飯を食っているという人が大勢いる状態なわけで、ちょっと気の毒だとは思いますが……。

【山口】フルスロットルをやめた瞬間に、産業構造が崩壊してしまうわけですからね。

【楠木】ただ、ブワーッと行くものが急激に失速し、ジワーッと行くものが長くもつということは、けっこういろいろな場所で観察される現象で、たとえば無印良品の戦略ってジワーッと行くという原則1本で組み上がっています。絶対にジワジワ行かないとダメ! という。

ありとあらゆるものが短期へ短期へと流れていく中で、自分の仕事をジワーッと長くもたせるということはとても難しいことだと思います。「○○はしない」「××は断る」というポリシーを貫くことでしか、達成できない。マーケットに合わせようすると、どうしてもサーブ権が向こうに行ってしまうのです。

【山口】そういう戦略を選び取れるかどうかも、センスの問題なのかもしれませんね。

(構成=山田清機)
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