事実を並べるのではなく、事実を解釈しよう

ビジネスの世界ではデータが崇拝される。しかし、事実のチャネルとは「データのことではなく、解釈のことだ」とクロスランドは言う。

この点を誤解しているためにコミュニケーションに失敗するマネジャーは多い。彼らはデータを解釈するのではなく、ただ並べ挙げるのだ。「部下たちはデータの羅列を求めてはいない」とクロスランドは言う。「彼らが知りたいのは、このデータを上司がどう解釈しているか、結論は何かということだ。あなたの思考プロセスが論理の通ったものか、そしてその筋道がきちんと示されるかということだ」。

感情を使ってコミュニケーションの効果を高めよう

「かつて私は数字一辺倒の人間だった」。こう語るのは、325店舗を構える宗教用品小売企業、ファミリー・クリスチャン・ストアーズ(ミシガン州)のCEO、デイブ・ブラウンだ。

数字はブラウンを大いに助けてくれた。彼は30歳の若さで、レンズ・クラフターズ社──「1時間でぴったりの眼鏡を」というコンセプトで1983年に設立され、急成長していた眼鏡小売チェーン──のCEOの座についた。事実が自分の邪魔をしていることに彼が気づいたのはそのときだった。

「事実はそれだけで1つのレベルの結果を伝えることができる。しかし、より高いレベルの結果を覆い隠してしまうという点で有害なものでもある」と彼は言う。会社をそのより高いレベルへと導くために、若きCEOは「事実よりはるかに高い次元で、つまりビジョンを伴った感情のレベルで自分の意図を伝える」必要があった。

自分の問題点に気づいたブラウンは、100人の主要幹部との社外ミーティングを設け、利益だけに注目していた自分の狭い考え方について謝った。「私はこう話した。今まで自分も楽しくなかったし、皆さんの多くを不愉快にさせていたことも十分、想像できる。今後はいかにして生活に価値を加えるか、顧客経験のどこに価値を加えるべきかを考えることにもっと時間を充て、マネジャーというより真の意味で皆に奉仕するリーダーになりたいと思う」。

ブラウンは、クラークやクロスランドがリーダーの声の感情のチャネルと呼ぶものに踏み込んだわけだ。このチャネルには2つの構成要素がある。1つは話し手が自分の感情を心から、しかも適切な形で表現する手腕だが、これは多くのビジネス・リーダーにとって気の進まない作業だ。ブラウンも「そうするのは怖かった」と言う。

「私が持っていたCEOのイメージは、弱さを微塵も見せないというものだったからだ。夢や不安を表現し、感情のレベルで語るとなると、弱さを見せることになりかねない。しかし、そうする価値は十分ある」

感情のチャネルのもう1つの構成要素は、メッセージを受ける側の感情に思いを馳せることだ。クラークは次のように説明する。「CEOが『わが社の来年度の目標は利益を32%増やすことだ』と宣言するとしよう」。次にそのための戦略を説明する。聴衆のなかには意欲をかきたてられる者もいれば、怒りを感じる者もいるだろう。不安を感じる者もいるにちがいない。リーダーがそれらの感情を理解し、本気で気づかっていることが伝わるように、受け手の感情のひだに語りかけることができれば、受け手とリーダーの間に生まれやすいこの壁は崩れはじめる。