3つの言語で世界を捉えよ

しかし、この世の中からこうした“フェイク”を排除することはもはや不可能だろう。したがって、自らの力で“ファクト”を見極め、何が真実なのかを導き出す必要があるわけだ。

思考のフレームワークについては、先ほど「川を上り、海を渡る」というのを紹介したが、ファクトを探すためのツールとして「3つの言語」というのを紹介しておきたい。

筆者は、「言語」というものを三種類に分けて捉えている。まず一つめは、人前で話をするときや、本を書くときなどに使っている人文科学の言語だ。これは一般の人が普段の会話で使っている口語と考えていい。母国語に加えて、他の外国語を習得すればするほど、アクセスできるファクトは増える。今の時代は英語はマストだろう。ただ、この言語わかりやすいが、世の中には人文科学の言語では的確に説明しきれない事物がある。

そこで出てくる二つ目の言語が、自然科学の言語である。筆者の理解では、数学も自然科学の言語になる。たとえば、アインシュタインの相対性理論を人文科学の言語で説明するのは至難の業だ。要点を簡潔にまとめても、物理学の相応の知識がなければわけがわからないだろう。だから一般向けの入門書などでは「時速100キロメートルで走るクルマに乗っているとき……」などと、身近な現象に置き換えたりして説明される。

ところが数式を使えば相対性理論は一発で説明ができる。もちろん、相手にも数式を自然科学の言語として読み解く能力がなければこの会話は成立しないが、数学の能力を持った者同士であればランゲージ・バリア(言葉の壁)はないので、世界共通の普遍的知識として共有できる。日本でもバカ売れしたトマ・ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)も、人文科学の言語で書くからあれだけ分厚い本になるのであって、自然科学の言語が使える人なら数式だけで説明できる。海外で発表される自然科学の論文も同様だ。

日本語だけで「普遍的心理」を見出すのは無理がある

髙橋洋一『ファクトに基づき、普遍を見出す 世界の正しい捉え方』(KADOKAWA)

三つ目には社会科学の言語があり、これは会計や経済理論などのことである。

筆者はこの三種類の言語を使い分けているが、言語を広げていくと、それだけいろいろな世界が見えてくる。逆に言えば、日本語だけで“普遍的真理”を見出そうと頑張るのは、かなり無理のあることなのだ。

これからも世の中はどんどん変化し複雑になっていく。2020年は、米中貿易戦争、イギリスのEU離脱、ホルムズ海峡の緊張、日韓関係の悪化など国際的な不安要素も多い。

議論や交渉の場ではもちろん、世の中にはびこるフェイクに人生を翻弄されないためにも、ぜひ、今回ご紹介したツールを活用してもらいたい。

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