一つひとつの試合を無駄にしないためにノートを開く
19年シーズンは本当に苦しかったのですが、精神的に追い込まれていたことは一度もありませんでした。
試合に勝てない=うまくいかないことは、これ以上ない学びの機会です。自分の至らなさや勉強不足を、客観的に突き付けられる。苦しければ苦しいほど、本当の自分が分かる。その時々で自分が何を考え、どんな行動をするのかが試される。成長するチャンスをもらっていると感謝するべきだ、スタッフや選手が喜んでくれる方法をつかむことができるのだ、と受け止めていったのです。
こんなことを言ったら怒られてしまいそうですが、どこか自分らしいとさえ感じていました。
能力がないのですから、苦しむのは当然です。いいことばかりあると、「本当にこれでいいのか」と、不安に苛まれます。
ひとつの勝利、ひとつの敗戦も無駄にしないために、自分なりに試合をレビューし、気持ちが落ち着いたところでノートを開いていきました。チームに迷惑をかけているのですから、何とかしなければいけないという一心でした。
何歳になっても、人は変われると思います。
私自身は40歳を過ぎても迷いを払拭できず、58歳になってもなお泰然自若とした心を持てずにいます。だからこそ、自分を磨くことを心掛けてきました。
ノートを通して自分ができることを増やしていく
先人の言葉に励まされ、ノートに書き移すのも、中国の古書『礼記』にある「差うこと若し毫釐ならば、繆るに千里を以てす」の言葉に触れたからです。「小さな違いがやがて大きな違いになる」と信じて、薄い紙を一枚ずつ積み上げていくように、自分ができることを増やしていこうとしてきました。
ファイターズの監督として8年という日々を過ごしてきた過程で私は、自分ができることを増やす作業、自分の度量を大きくする作業は、人間としての責任だと感じるようになりました。それを自分磨きと定義しています。
なぜ自分磨きをするべきかと言えば、人はひとりでは生きられず、誰かのために役立つために生まれている。家族と、友人と、同僚と、手を取り合い、支え合って生きていく。誰かに喜んでもらうことが、人生における最上の嬉しさになっていくからです。