「みんな仲良く」「未来は明るい」なんて嘘っぱち

【小林】映画や漫画など、いわゆるサブカルチャーの話で一緒に盛り上がれたのもうれしかった。私は父親の影響で60年代や70年代のロックやテクノをよく聴いていたんですが、おかげで学校ではなかなか趣味の合う友だちが作れなくて。ジャニス・ジョプリンのことがめちゃくちゃ好きだったんですが、クラスの誰も知りませんでした(笑)。

――ジャニス・ジョプリンの音楽との出会いは、作中で章も割いて描かれています。

【小林】私の場合、とにかく衝撃的だったのは、ジャニスが「人生はすごくつらい、苦しい」ってことばかり言っていることだったんですよ。私の中で女の人というのはきれいな歌声で、恋の歌を歌ってばかりのイメージだったから、ジャニスが髪の毛を振り乱して、醜い表情をしながら「もう生きるのがめっちゃつらい、苦しい」と歌っているのが「いや、チョーかっこいい!」と思って。周りは基本的にみんな仲良くとか、未来はもっと明るいみたいなポジティブな言葉で誘導してきますが、私はそっちのほうがうそっぱちにしか思えなかったんです。

撮影=プレジデントオンライン編集部
新刊のタイトルは、ジャニスの死後に発売されたアルバム『パール』の収録曲「生きながらブルースに葬られ」へのオマージュだ

子どもには「失敗する権利」があると思う

――美大への進学を熱望したものの両親に反対されたというエピソードが登場します。小林さんに限らず、美大進学は親からの反対に遭う人が多いですよね。「安定した職に就けそうな進学先を選びなさい」という声には根強いものがあります。

【小林】親が子どもの進路を反対するのって、過去に自分が失敗した経験があるからだと思うんですよ。あるいは、自分が成功した方法で子どもにも成功してほしいから。でも私はやっぱり、子どもには失敗する権利があると思います。

――失敗する権利?

【小林】誤った道を進んで失敗するという経験は、子どもにとってすごく大事なことです。例えば、よちよち歩きの子どもが転びそうになったからって常に抱っこしてあげていたら、子どもは一生自分で歩くことができないじゃないですか。私たちは失敗することで次はどうしたらいいのか考えて、そうやって生きていくんだから。