「美大に落ちた」経験すら手に入らなかった

【小林】私はどうしても大好きな絵で生計を立てたくて、そのために美大に入りたかった。美大に入るのはとても難しいことですが、失敗したらしたでよかったんです。何十万もかけてアトリエに通って、何回も留年して、それでも失敗して「ああ、私には絵の才能がなかった」とわかる。そういう経験がしたかったんですよ。私は受験すら反対されたので「美大を受けて落ちた」という経験すら手に入らなかった。死ぬほど努力したら、もしかしたら1ミリくらいは才能があったかもしれない。でもそれすらもう見極めることはできません。私は自分の可能性がわからないままでした。

――子どもから失敗する権利を奪っていることに気が付かない親は多そうです。我が子を危険から回避させているつもりで……。

【小林】でも、子どもは失敗できなかったことを後々まで恨んでしまいますよ。失敗さえできれば、ダメだった自分に納得できるのに。

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過去の記憶が苦しくても、人生は絶えず変化していく

――小林さんのように、現在も10代の記憶に苦しめられ続けている人に伝えたいことはありますか。

【小林】私もいまだに過去の記憶に引きずられることがありますが、人生は絶えず変化していくもの。今の自分の立ち位置をよく見つめて、「(10代は)昔のことだ」と自分に言い聞かせ続けることが大切だと思います。それから、経験を共有することです。世界で私ひとり、自分だけが味わっていると思っていた苦労や苦痛を、別の地域で同じように味わっていた人がいるとわかればいい。自分だけじゃなかったんだって。

――経験を分かち合える人や場所に出会うにはどうすればいいのでしょう。

【小林】やっぱり、自分の情報を開示していくということじゃないでしょうか。私は人からけっこう驚かれますが、初対面の人にも「私、精神疾患だから精神障害者手帳を持ってる」とパパッと言っちゃうんです。なぜかというと、先に言ったほうが、同じように精神を病んでいる人が「私もだよ」って言いやすいだろうから。精神科について尋ねられることも多いです。