欧州では脱マイナス金利の動きが広がっている

程度の差はあるが、こうした現象は欧州の各国で生じている。マイナス金利で需要が刺激されても、伸びるのは住宅ローンが中心だ。そこから得られる収益よりも、マイナス金利で徴収される手数料といった費用の方が勝っている。わが国と同様に、銀行の業績不振は、欧州では非常に大きな問題となっている。

経営に苦慮する欧州の銀行は、ペイオフ対象外の大口預金者に対してマイナス金利を適用している。当初は法人が中心だったが、今は個人(預金が10万ユーロ以上)にも適用されている。負担を避けたい人々が預金を引き出し、家庭用の金庫に入れるようになったというは有名な話だ。預金者にとってこれほど評判が悪い金融緩和策もないと言えよう。

それに世界的なドル高を受けて、欧州の主要通貨は相場が安定している。物価も緩やかだが着実に上昇している。通貨や物価を理由とする金融緩和は正当化できない。こうしたことから、欧州では脱マイナス金利の動きが広がりを見せている。それでは、同様にマイナス金利政策を実施している日本の場合はどうだろうか。

行き過ぎた金融緩和は財政の持続可能性を削ぐ結果に

日本の家計の債務残高は最新19年第2四半期時点でGDPの58.7%にすぎない。マイナス金利政策導入前の15年末時点でも56.7%と、マイナス金利で家計の債務が増えたとは考えにくい。この間に日本の住宅価格は都市部を中心に堅調に上昇しているが、マイナス金利との関係は定かではない。

しかし繰り返しとなるが、地域経済のインフラである地方銀行を中心に、日本の銀行の収益力はマイナス金利政策の導入後、着実に悪化している。地方銀行そのものの経営体質に問題がないわけではないが、マイナス金利という異常な環境が銀行の収益力を弱めていることは、日銀自身も認める紛れもない事実だ。

GDPの2倍以上の公的債務を抱える日本経済にとって、財政の持続可能性を高めることは喫緊の課題だ。その財政を支えるためには、大規模な金融緩和は確かに必要不可欠である。しかし行き過ぎた金融緩和が、財政を支える金融を傷つける結果となっていることを私たちは認識すべきだろう。

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