破棄のカードを切らせるために「ガン無視」した?

【佐藤】私は、むしろGSOMIA破棄というカードを一度切らせるため、日本側がガン無視したと読んでいるんですよ。日本側が関係改善の呼びかけに応じようとしない以上、文政権は「もはやGSOMIAはなきがごとし」と断じて、必ず破棄を通告してくるはずと。ならば、彼らに壊してもらって、その全責任を負わせ米政権を味方につける——。このとき、日本側の念頭にあった観客は、ドナルド・トランプたった一人でした。

手嶋龍一・佐藤優『日韓激突 「トランプ・ドミノ」が誘発する世界危機』(中公新書ラクレ)

【手嶋】確かに米国防総省が「文政権が日本と協定の延長をしなかったことに強い懸念と失望を表明する」と述べるなど、トランプ政権の批判の矛先が、韓国に向けられていきました。

【佐藤】日本政府が韓国をGSOMIA破棄の通告に「追い込んだ」という見方は、第2次世界大戦開戦前の「ハル・ノート」を想起すれば分かりやすいかもしれません。ハル・ノートは、1941年11月に、アメリカ国務長官ハルが日本側に示した覚書で、そこには日本軍の中国、仏領インドシナからの全面撤兵、蒋介石政権以外の政権承諾拒否など、日本側としては、とうてい受け入れ難い内容が盛り込まれていた。これが事実上の最後通牒となって、日本に開戦を決意させ、12月8日の真珠湾攻撃に至ったわけです。

【手嶋】真珠湾攻撃だけをみれば、山本五十六提督の大胆な奇襲は戦史を画する成功と言っていいでしょう。しかし、対英米開戦に至る大局的な情勢判断は、悲劇の幕開けを告げるものとなりました。

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