官邸官僚は「帝国陸軍」みたいだ

【佐藤】あえて現政権下の外務官僚に成り代わってみると、今の官邸官僚は、「帝国陸軍」のように映るのかもしれません。統帥権、すなわち安倍晋三首相との深い関係を盾に、外交に土足で踏み込んでくる。本当は、それを排除して外務省主導の外交に戻したいのだけれど、戦前の陸軍が軍刀を振り回して圧力をかけていたのに代わって、今は内閣人事局が高級官僚の人事権という伝家の宝刀を握っているから、外務省も手出しがしにくいわけです。

【手嶋】戦前だって、陸軍への抵抗を試みた外交官はいたのですから、官邸にいくら人事権を握られているからと言って、情けないと思ってしまいます。

【佐藤】ただし、安倍官邸が打った布石は間違ってはいなかったと思います。国際場裏では、売られた喧嘩けんかは、時に買わなくちゃならない場面もあるわけだから。

【手嶋】その点については僕は佐藤さんと意見が違うのです。毅然きぜんと戦うなら、「ホワイト国」から韓国を外した理由をきちんと示すべきでした。韓国大法院の判決への対応策だと明言すればいい。もし日本から輸出された貴重なハイテク製品がテロ組織などに流れているのが事実なら、当然、優遇措置を認めるわけにはいきません。

【佐藤】テロ支援国家やテロ組織にハイテク製品が流れていれば、完全にアウトです。

【手嶋】ところが、「安全保障上の観点から除外を決めた」と曖昧なもの言いに終始し、明確なエビデンス、証拠を示そうとしていない。通商上の問題に安全保障を絡めれば、機密情報のやり取りに関する取り決めであるGSOMIAに跳ね返ってくることは、容易に予測できたはずです。

【佐藤】確かにこの問題は、手嶋さんが指摘するように、貿易のテクニカルな側面より、互いの信頼関係に関わる問題と見るべきですね。

日本のメディアが理解していない日米韓のシステム

【手嶋】さらに議論を深めるために、日本・韓国・米国の安全保障に関する情報交換の仕組みをみておきましょう。GSOMIAの問題が起きた後も、日本のメディアが3国の情報交換のシステムをきちんと理解していないのは問題です。

2014年に、まずアメリカを介して日本・米国・韓国の3国で、安全保障に関わる機密情報をやり取りするTISA(日米韓情報共有に関する取り決め)が締結されました。

【佐藤】アメリカを中核に日本と韓国がそれぞれ同盟関係にあることを前提に、北朝鮮のミサイルなどに関する機密情報を日韓が交換できるようにした仕組みです。ただ、アメリカを介して情報をやり取りするので時間がかかる。要するに、まどろっこしい。なおかつ、そこでは、機密情報のやり取りに関する「サード・パーティー・ルール」が適用されます。いわば情報を送る側の著作権で、例えば韓国がAとBという情報を入手して、アメリカに伝える。その際、韓国が「日本にはAだけ伝えて、Bは伏せてもらいたい」と要請すれば、アメリカはそれに従わなくてはいけないのです。お互いにそうした義務を負う「三角関係」なんですね。やはり、日韓の間にはワンクッションあるわけです。