「元徴用工判決」で争いが先鋭化

【手嶋】まず、2018年末からの動きを簡単に振り返っておくことにします。18年11月、韓国は、慰安婦問題日韓合意に基づく慰安婦財団の解散を発表します。12月には、韓国海軍艦艇による自衛隊機へのレーダー照射という、奇妙な事件が起きました。

【佐藤】韓国軍側の「誤射」であることは明白ですが、軍がそれを認めようと思っても、国に諮った結果、「黙っていろ」ということになってしまった。

【手嶋】ただ、この頃は、両国関係がこれほど険悪になるとは、少なくとも日本側は思っていなかった。やはり、日韓の争いが先鋭化するきっかけは、何といっても元徴用工の訴訟問題です。ことの発端は、18年10月に、日本の最高裁にあたる韓国大法院が日本企業に対して元徴用工に賠償を命じる判決を下したことでした。文在寅政権がこの司法判断を支持する姿勢に傾き、これに対抗して、日本政府が日韓請求権協定に基づく仲裁委員会の設置を求めました。1965年の日韓基本条約で過去の賠償問題には決着がついたのですから当然の要求ですが、韓国側はこれに応じようとしませんでした。

【佐藤】明らかに無視しましたよね。これで両国の間の軋轢あつれきはぐんと高まりました。

官邸主導の「ホワイト国」除外

【手嶋】そうなのですが、あえて言えば、ここまではまだ「衝突の前史」と言っていいと思うのです。日韓が相対する碁盤に、先に決定的な石を打ったのは、まず日本でした。19年7月初旬、韓国向けの半導体のハイテク素材3品目について輸出管理を厳格化し、翌8月に入ると通商上の優遇措置の対象国を意味する「ホワイト国」のリストから、韓国を外す措置を発動したのです。安倍官邸は、徴用工問題に対抗して韓国に特別な報復に出たわけではない、通常の貿易対象国に戻したに過ぎないと説明しました。しかし、「ホワイト国」は、相手国の手が汚れていない、つまり、テロ支援国家やテロ組織に軍事製品に転用可能なハイテク製品が流れることはないことを意味するものです。ですから、韓国の文在寅政権は「自分たちを信用しないのか」と怒り、8月22日、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄通告に踏み切ったと思われます。

【佐藤】「ホワイト国」からの除外については、安倍政権は否定していますが、決着済みの元徴用工問題に韓国大法院が新たな判決を出したことへの明らかな報復だと私も考えます。ただ、報復をそうとは言わずに実行する、こうした「フェイント」のような手法を日本の外務官僚は好まない。あれは安倍官邸の主導によるものでしょう。

【手嶋】日本外交の内在論理をよく分かっている佐藤さんがそう言うのですから、本当なのでしょう。だとすれば、日本の経産官僚、そして経産OBが、主導して切った札と言えそうです。これは彼らの得意技だと思います。