GSOMIAと「ホワイト国」の切っても切れない関係

【手嶋】それでは、緊急の事態には間に合わない。そこで16年に、日韓がGSOMIAを締結し、両国が直に機密情報を交換できるようになった。北朝鮮が核実験をしたり、核ミサイルを発射したりすれば、ことは寸秒を争いますから。これによって、状況はぐっと改善されました。

【佐藤】ただし、そうした機密情報を共有するためには、お互いの信頼関係が揺るぎないものであることが大前提です。TISAは確かにまどろっこしいのだけれど、日米、米韓という強固な同盟関係をベースに構築されています。しかし、GSOMIAはそうではありません。日韓は同盟関係にはありませんから。機密情報の交換を有効に機能させるには、両国の信頼という「担保」がやはり不可欠なんですよ。

【手嶋】繰り返しますが、GSOMIAとは、相手を「安全保障のホワイト国」、つまり相手の手が汚れていないという信頼関係を前提に機密をやり取りする仕組みなのです。

【佐藤】そういうことです。だから、GSOMIAの破棄というのは、日本はそれに値しない、という韓国の意思表示ということになります。

【手嶋】ただ、先に石を置いたのは日本なのです。韓国を通商上の「ホワイト国」から除外するという決定こそ、「もうお前は信用できない」と通告するも同然の行為です。しかも、「安全保障上の理由」だと通告したのですから、GSOMIAに跳ね返ってくることは避けられなかった。少なくとも外交のプロたちには分かっていたはず。

文在寅政権による破壊を国際社会に訴えればよかった

【佐藤】GSOMIAを成り立たせている信頼関係は、すでに韓国大法院の元徴用工訴訟判決を文政権が支持した時点で崩れていたと思うのです。あの時点で、日本側の不信感は極限に達してしまいました。

【手嶋】私は対抗措置をとるべきではないと言っているのではありません。韓国大法院の判決と文在寅政権の姿勢に「異議あり」と表明するなら、国際的な舞台に持ち出すなど、他策がありえたはずと指摘しているのです。これまで営々と築き上げてきた日韓の信頼関係が、文在寅政権によって次々に破壊されている現状を堂々と国際社会に訴えればいい。通商上の技術的な分野で報復に訴えたことは、広く世界の舞台で主張をアピールする力量に欠けている弱点を露呈していると思います。

【佐藤】しかしながら、実際には、安倍政権は「ホワイト国外し」という形で日本の意思を示した。さらに、その直後の2019年8月15日、日本の植民地支配からの解放を祝う「光復節」の演説で、文在寅大統領が「日本が対話と協力の道に出れば、喜んで手を取る」と一応歩み寄ったものの、今度は日本政府がガン無視した。

【手嶋】事前には、相当辛辣しんらつな対日批判が飛び出すのではという観測も流れましたが、文演説のトーンは意外に抑制されたものでしたね。