ユーザーの手間を劇的に減らす効果も
このオープンな接続が、企業を引きつけるうえで重要であることがわかった。やがて、中国最大の機体数を持つ中国南方航空が微信のオフィシャル・アカウントを開設した。
あるユーザーが「明日、北京から上海まで」と書き込むと、微信はその条件に当てはまるフライトの情報をすべて表示する。フライトを選んでクリックすると、ユーザーは中国南方航空のサーバーに移動し、そこで予約や支払いを行うことができる。
データのやり取りはすべて航空会社のサーバー上で行われるのだが、ユーザーはすべてを微信上で行っているような印象を受ける。これがユーザーの手間を劇的に減らした。ユーザーはもはや新しいアプリをダウンロードしたり、スマートフォンの小さな画面の上で、あちこちのウィンドウを行き来したりしなくて済む。
これは新たな価値提案だった。すなわち、企業は望むならば自社で新しい機能をいくつでもつくることが可能で、すべてのデータを保持することができる。そうでありながら、ユーザーインターフェイスは何億人もの中国人が慣れ親しんだ微信のものを使うことができるのだ。
データ保存できないことが西側と組む「強み」に
ある社員がわたしに、微信はユーザーのデータを平均で5日間しか保持しないと言ったとき、わたしはそれを疑わしく思った。顧客情報を手放したい企業などないだろうと考えたからだ。
わたしの共同研究者も同様に感じて、微信のサーバールームの大きさを尋ねた。するとその面積は小さく、そこから判断するとストレージも微々たるものと考えられた。
リアルタイムでのモニタリングと機能の利用分析以外では、データマイニングはまったく不可能なのだ。しかし、微信が顧客データを保存できないというまさにその点が、西側の企業にとつては魅力となる。そうでなければ、彼らは微信と強い協力関係を結びたがらないだろう。大手企業は情報のコントロールを失うことを好まないからだ。
微信の大きなブレークスルーは、製品の優れた機能は社内では決して開発できないと認識したことだ。キラーアプリは、ユーザーが開発すべきなのである。
スティーブ・ジョブズのような鋭い人物でも、iPhoneの非常に優れた機能が、たとえばタクシーを呼ぶこと(ウーバー)や、自動的に消える写真を撮ること(スナップチャット)などになることは予想しなかった。
どんな企業も、ウーバーとスナップチャットを両方思いつくことはできない。たいていの場合、意思決定の質が向上するのは、多様で独立したインプットがあるときだ。微信は、意思決定そのものを分散し、アウトプットを「大量生産」したのである。