お年玉やご祝儀、公共料金、投資もアプリで

世界の消費者は、たとえ同じようなテクノロジーを使っていたとしても、慣習はそれぞれに大きく異なる。したがって大手テクノロジー企業も、各地の環境に高度に適合した生物のようになっていく。

例として、スマートフォン決済を見てみよう。微信は2013年に、最初の決済システム「微信支付(ウィーチャットペイ)」を立ち上げた。そのなかでも絶大な人気を誇る機能が「紅包(ホンパオ)」だ。

これは、デジタルマネーの入ったバーチャルな封筒を、ユーザーが春節(旧正月)などに家族や友人に送れる機能だ。

微信はこの伝統的な習慣に少しひねりを加えた。送る総額と送る人数をユーザーが決めれば、あとはアプリが各人に送る金額をランダムに設定する。たとえば、3000人民元を30人の友人に送るとする。すると、なかには他の人たちよりも多くもらえる人が出てきて、あちこちでニヤリとした顔やがっかりした顔が見られる。

これはある意味で社交であり、ゲームであり、ちょっとしたギャンブルでもある。2016年2月7日から12日までのあいだには、320億通の紅包が送られた。その前年の同期間は32億通だったので、大幅な拡大である。

微信では公共料金の支払いやファンドへの投資も行える。さらに、親会社のテンセントは、中国版ウーバーとも言える滴滴出行(ディディチューシン)と、中国版グルーポンとも言える美団点評(メイトゥアンディエンピン)に何十億ドルもの投資を行い、微信のユーザーがアプリから離れることなく車を呼んだり、グループ割引を受けたりできるようにした。

生活に不可欠なモバイルツールに

微信のサービスは近年さらに拡大し、いまでは地域の小売店だけでなく、マクドナルドやKFC、セブン‐イレブン、スターバックス、ユニクロといった錚々たる大手小売業も、微信支付による支払いを受け付けるようになった。

ニューヨーク・タイムズ紙は中国におけるこの社会・経済的現象について、「現金は急速に過去のものになりつつある」と書いた。

今日では、スマートフォンを振って新しい友人を見つける機能が人気になっている。また、テレビの前でスマートフォンを振るとそのスマートフォンが放送中の番組を認識し、視聴者がそれに参加できる。