「役所の担当者」にすら話せない地方がある

ひきこもる子の存在を知られたくないと思うと、親自身の行動範囲も狭くなりがちだ。ひきこもる子をもつ母親は、友人とのお茶飲み会に参加したくても、子どもの話題が出たら対応に困るので、足が遠のくという。同じような経験をもつ家族同士であれば、気負わずに子どものことを話せるという人は多い。ただ、家族のグループに参加する親たちは、グループ以外の場では、我が子のことを話すのがいかに難しいかを吐露している。「数十年にわたって子どものひきこもり状態について悩み、各地の専門家を訪ねて相談したが、地元の知り合いには決して我が子のことを打ち明けることができなかった」と語る人もいる。

一概にはいえないが、地方のほうが、都市部に比べて人付き合いが濃密で、家族の話をうかつにできないという話を聞く。役所へ相談に行こうにも、窓口担当者が顔見知りで、身内の話などできるわけがないと感じるというのだ。

こうしてひきこもりの課題は家庭の内側に閉ざされていく。

支援が先延ばしにされてきたという現実

幾重もの壁を乗り越え、家庭内の問題をやっと外に出したとしても、支援の窓口での相談がうまく進まなかったというエピソードも、家族会の調査では多く語られている。

支援者の側からみた問題解決の難しさについては本書でも触れているが、家族側からみた相談の困難さについてここで紹介しておこう。

40歳以上の例では、「家族が仕事などに忙しく本人の課題を相談に行くのが遅れた」「家族自身に状況を変えることへの不安や抵抗感があった」「支援の途絶に関連して窓口や相談への失望感があった」という声が聞かれる。「支援の途絶」とは家族が開始した相談が、何らかの理由で途切れることを指すが、家族会の調査では26事例みられた。

「初回相談で話したことが引き継がれていないので、何度も同じ話をしなくてはならない。やっと相談が軌道に乗ったと思ったら、担当者が異動になった」
「『何かあったらまた来てください」の繰り返しで、通い続けても役に立つアドバイスが得られない」

ひきこもる人への支援には、長期的な関わりや、本人や家族についての多角的な情報収集が必要になる。しかし、ただちに対応すべき大きな問題(暴力や自殺企図など)が起こっていないことを理由に、本格的な支援を先延ばしにするような対応が、特に過去には多かったことは否めない。