ひきこもりの長期化はなぜ起きるのか。愛知教育大学の川北稔准教授は、「ひきこもりを恥ずかしいと捉える親の意識や、周囲の理解不足が一因だ。課題が家庭の内側に閉ざされてしまい、支援につながりにくい」と指摘する――。(第1回/全3回)

※本稿は、川北稔『8050問題の深層「限界家族」をどう救うか』(NHK出版新書)の一部を再編集したものです。

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40代以上のひきこもり経験者の道筋を調査

今年6月1日、東京都練馬区に住む父親(70代)が、「運動会の音がうるさい」と暴れはじめた息子(40代)の胸などを包丁で刺し、息子は搬送先の病院で死亡が確認された。父親は、ひきこもる息子からの家庭内暴力を受けていたことを捜査関係者に話したという。国家公務員として事務次官を経験した父親が、息子のことを専門の窓口に相談した形跡はなかった。なぜ、ひきこもりの悩みは家庭内に閉ざされてしまうのだろうか。

ひきこもりがどのような経緯で長期化・高年齢化しているのかは、あまり知られていない。全国55か所(2018年10月現在)の家族会が参加するNPO法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会では、2016年、厚生労働省の委託によって、40歳以上のひきこもり状態にある人についての聞き取り調査を実施した。その結果、全国から61の事例が寄せられ、筆者はこの調査の取りまとめを担当した。

浮かび上がってきたのは、長きにわたり試行錯誤を繰り返す家族の姿であった。以下ではこの調査の結果も交えながら、ひきこもる子をもつ家族のエピソードを紹介していく。