脅す、侮辱する、さえぎる交渉はいつも成果が出ない
スチュアート・ダイアモンドの交渉術コースでは、学生をいくつかのチームに分けて交渉のシミュレーションを行わせ、どのチームが高い成果を上げたかを学生自身に評価させている。
その結果は、ほぼ毎回同じだという。交渉時の態度が悪いチームは(相手を脅す、侮辱する、相手の話をさえぎる、相手にあてこすりを言うなど)、交渉の成果も上がらない。交渉時の関係がよいチームほど、交渉の成果は高くなる。交渉相手に敬意をもって接すれば、相手に好意をもってもらえるだけでなく、相手の理解も得やすくなるからだ。好感のもてない相手の言い分に耳を傾けようとする人はいない。交渉相手に好かれるかどうかで、交渉の成果は大きく変わる。
あなたが相手に共感できなくても、どんな極端な状況にあっても、相手との関係性が重要であることに変わりはない。人質事件が起きたときは、人質が生きている時間が一分でも長いほうが解放されるチャンスは大きくなることがわかっている。犯人と人質とのあいだに結びつきが生まれ、犯人が人質を殺すのに躊躇するようになるからだ。
“単刀直入”がまったくよくないワケ
交渉をはじめる際には、席につくなり「それでは本題に入りましょう」と言うのでなく、最初は相手の精神状態を読みとることからはじめよう。交渉相手はストレスを感じて、いらだって攻撃的になっているだろうか、それとも、上機嫌で愛想がよく、開放的な気分でいるだろうか? よく知っている相手でも、日によってまったく別人のような印象を受けることもある。
ただし、強硬に自分の要求を押し通そうとするタイプの相手との交渉にのぞむ場合でも、あなたは友好的に、オープンな態度で相手に接したほうがいい。そうすれば、相手も強硬姿勢を強めるかわりに、あなたに対して寛容な態度を示してくれるようになる。人間はえてして、周りから求められているとおりのふるまいをしようとするものだからだ。
友人たちが会話しているときの様子や、気の合う者同士が話しているときの様子を観察すると、彼らのふるまいがよく似ているのに気づくはずだ。ボディランゲージ、体の動きや話すときの速さ、それどころかくだけた話し方をしたり堅苦しい話し方をしたりといった話し方のスタイルまで似通っている。