友人のように、相手のふるまいを合わせればいい
人間は、自分と同じような気分でいる人間にもっとも感化される。腹をたてている人は同じように腹をたてている人に感化されやすく、悲しげな気分でいる人はやはり悲しげな気分でいる人に感化されやすい。そして双方が相互に感化しあうと、ふるまいは自然に似通ってくる。気の合う友人同士の話し方やしぐさが似ているのはそのためだ。
つまり、あなたが相手と良好な関係を築くために、互いに打ち解けあっている状態を意識的につくり出すには、あなたのふるまいを相手に合わせればいいということになる。あなたの話し方やしぐさは、わざとらしくならない程度に相手に合わせるようにしよう。
この二者間の相互の信頼関係はラポールと呼ばれている。ラポールは、精神科医のジークムント・フロイトが患者と良好な関係を築く際にも、重要な役割を果たしていた。
では、交渉時に相手とのあいだに良好な関係やラポールを形成するには、具体的にどうすればいいのだろう?
たとえばあなたが車の販売員なら、「車の予算はどのくらいをお考えですか?」ではなく、「以前はどんな車に乗っていらしたんですか?」という会話から話をはじめるといい。どんな人に対しても使うことができ、誰も嫌な気持ちにさせない話題から会話をはじめるのだ。天気、映画、旅行、食の好みやスポーツなど、分野はどんなものでもかまわない。
雑談とは「双方が興味をもてる話題を見つける」こと
壁に掛かっている絵について話しているうちに交渉相手に元医学生の芸術家の娘がいることがわかり、交渉相手は本当は娘に医学部を卒業してほしいと思っていたなど、話の糸口にすぎなかった話題が興味深い会話に発展することもある。相手の関心事やこれまでの人生についてなど、話をする前に相手に関する情報を仕入れておくのも、もちろん大いに役に立つ。
私はときどき、私の家族やお気に入りの旅行先など、ごく個人的なことについても訊かれることがあるが、彼らがその問いに対する私の答えにたいして興味がないのは容易に見てとれる。単にトレーニングで学んだ交渉の手順をなぞっているだけなのだ。
しかし世間話の意義は、よくある礼儀正しいやり取りを通して双方が本当に興味をもてる話題を効率よく見つけることにある。そして互いに興味のある話題が見つかれば、煩わしいお決まりの儀式もその場にいる全員にとって楽しめるものになるばかりか、交渉におけるあなたの態度にもプラスに作用する。不機嫌な状態で交渉をすると、相手に対してひどく批判的になりがちだからだ。