古城がフランス人の「鼻もちならない面」を引き出した
それまで一年間ずっと相手の立場を尊重してきたアルカテルが、なぜ急に態度を変えたのだろう? 本当のところはわからない。しかし、ヴァレラスに言わせると、「古城がフランス人の鼻持ちならない面を引き出したから」らしい。
「わたしたちは宴会場で交渉していた。そこでは、アルカテルの幹部の尊大さと傲慢さがぷんぷん漂っていたんだ。ニュージャージーだったら絶対に見せないような、偉そうな態度でこちらを支配しようとしていた」
アルカテルの経営陣は、「われわれが買収したあかつきには」などと言いはじめ、そんな言葉に「ルーセントの経営陣はカチンときた」とヴァレラスは言う。
ルーセント側はアルカテルの振る舞いに我慢ならなかった。そして、とうとうルーセントの会長が「これまでだ」と城をあとにした。それで合併はご破算になった。それから17年後、数々の合併案件を成立させてきたヴァレラスは「古城の法則」は絶対だと言う。
「会談の場所が、心の底にあった感情を引き出してしまったし、その感情を強めてしまったことはほぼ間違いないと思ってるよ。対等合併なんてただの幻想だったってことがバレたんだ。
目的から逆算して場所を選ぶ
アルカテルの経営陣が巨額買収案件の交渉に限らず、「古城の法則」はどんな集まりにもあてはまる。人間は環境に左右されるものだ。だからこそ、目的に合った場所と文脈で集まりを開かなければならない。
もちろん、古城が集まりの目的にかなっている場合もあるだろう。だが、ルーセントとアルカテルの交渉では、もう一日だけフランス側が謙虚な態度を続ければうまくいっていたはずなのに、会場選びをまちがったばかりに獲物を取り逃がしてしまった。
その5年後、ルーセントとアルカテルは合併した。ルーセントのCEOは交替し、新任のCEOのもとでの合併だった。今回の交渉場所は古城を避けたにちがいない。