道路運送法改正で新事業が可能に

個人間カーシェアアプリ「エニカ」

DeNAがエニカをリリースしたのは、2015年のことである。同社は主力のゲームに次ぐ新規事業を育てる必要を見すえていた。この時期には、インターネットを活用した各種のシェアリング・サービスが広がっており、さらに規制緩和によって個人の自家用車の利用に新たな可能性が生まれていた。

エニカの利用方法はこうだ。エニカでは個人オーナーがシェアの条件を決めて登録した自家用車に、ドライバーが予約を申し込み、これをオーナーが承認すると予約が確定する。この予約確定時にドライバーは24時間単位の自動車保険に加入することが必須である。決済はエニカに登録したクレジットカードで行われる。予約当日は、待ち合わせ場所で車の受け渡しを行い、返却後はオーナーとドライバーの双方が相互のレビューを行う。

日本においては長らく、個人が自家用車を、国土交通大臣の許可なく有償で貸し出すことは禁じられていた。しかし2006年の道路運送法改正により、自家用車の共同使用に関する規制は廃止された。非営利という制限はあるものの、車にかかわる実費と見なせる範囲内であれば、個人間の金銭の授受についての許可は不必要となっていた。

「自家用車を、使わない時間帯に遊ばせておくのはもったいない。有効活用はできないものか」

このように考える個人オーナーにとって、規制緩和による新しい機会が生まれていた。そこにインターネット利用の拡大を背景とした「シェアリングエコノミー」の波が到来する。エニカの設立は、この時代の変化を受けて行われた。

新たなライフスタイル構築から始める

とはいえ日本では、そもそも先の法規制の問題などもあったわけで、自家用車の共同使用を、個人間で料金を決めて行う習慣は広がっていなかった。

つまりエニカとしては、従前にはない消費行動を新たに日本に定着させることから、活動を開始しなければならなかった。これはたとえば、eコマースの事業者がフリーマーケットなど、すでにリアルでなじみがある行動を、ウェブ上でより便利に提供する場合などとは、マーケティング上の前提が大きく異なる。今までにない個人間のカーシェアというライフスタイルから、新たに広めていかないといけないのである。

それだけではない。個人間で自家用車を共同利用しようとすると、待ち合わせ場所を決めて、そこで会って鍵の受け渡しを行う必要がある。一方の企業が所有する車を貸し出すシェアリングでは一般に、鍵の受け渡しは不要である。あらかじめ駐車場に用意されている車に、ドライバーは会員カードなどを操作して乗り込む。これは貸し出す車の開錠システムなどに、事業者による改修が行われているからである。

しかし企業とは違い、個人オーナーは、自家用車のこうした改修には尻込みしがちである。費用や時間の問題があるわけで、それは当然だといえる。だがそうなると、シェアリングにおいては、鍵の受け渡しが不可欠となる。時間を決めてオーナーが車を運転して待ち合わせの場所へ行く、あるいはドライバーがオーナーのもとを訪れるといった必要が生じる。利便性という点で、個人間のカーシェアはハンディキャップをかかえる。