突破口はブランド・コミュニティ
現在のエニカの事業本部マーケティング部部長である宮本昌尚氏がDeNAに転職し、エニカの運営に携わることになったのは2017年からである。この時点でエニカのリリースから、2年ほどが経過していた。
個人間のカーシェアという、日本人にはなじみのない新しいライフスタイル。これを、利便性という点ではハンディキャップをかかえながら、いかに広め定着させていくか。前途が見えていたわけではない。
宮本氏は試行錯誤のなかで、突破口をブランド・コミュニティに見いだしていった。
宮本氏が担当となった当時において、すでにエニカは渋谷などの会場で、50~70人規模の交流イベントを活発に行っていた。このコミュニティ型のイベントのねらいは、新しく会員になったオーナーたちに、古参オーナーたちから利用体験を聞く機会を提供することにあった。
自家用車を初めて他人とシェアするオーナーの不安は少なくない。個人間のシェアリングならではの楽しさを、十分に理解できていない新オーナーも少なくない。こうした問題を解消し、魅力のアピールを行う場として、エニカのコミュニティは運営されていた。
宮本氏が出かけてみると、そこには小人数のコミュニティならではの熱気あふれるやり取り交わされていた。
「ドライブ先で買ったお土産と一緒に、車を返しに来てくれたドライバーさんがいた」
「カーシェアから仲よくなり、近所のお祭りなどに一緒に出かけたりするようになった」
「愛車が、結婚式の入退場で利用されることになり、感激した」
「カーシェアをきっかけに、ドライバーさんの会社に転職した」
思いもかけないエピソードが飛び交っていた。熱い雰囲気に、宮本氏は気持ちを揺さぶられた。エニカによって、車を愛するオーナーとドライバーが出会うことで、新しい交流の機会が生まれていると感じたからだ。