その人にどんな仕事が与えられるかは、「スキル×経験」の掛け算で決まります。課長に見合うスキルと経験があればその役割が与えられ、社長に見合うスキルと経験があればその役割が与えられる。自分の掛け算値を高める努力を続ければ、周囲が「あの人ならこの仕事ができるだろう」と評価し、それに見合う役割をオファーしてくれるのです。

出世を目的にすると、かえって出世できずに終わることが多いものです。なぜなら「社長になりたい」が目的になると、無駄なことを考えるから。それよりも「どんなスキルや経験を身に付けるべきか」に集中すれば、確実に成長できる。その満足感や達成感こそが、人間を前に進ませる原動力になるのです。

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出世の早さに差が出る【課長編】

(悩み)同期の中でも昇進が遅く、先に出世していく仲間を見ると妬ましくなります。安渕さんは優秀な人に嫉妬したことはありますか?

【安渕】嫉妬はしませんね。優秀な人を見ると「こんなにすごい人がいるんだ」と感心はしますが、それは嫉妬ではなく相手に対する評価にすぎません。特に同じ会社の人に対して、妬ましいと感じた経験はまったくありません。それは「ライバルは会社の中ではなく、外にいる」と考えていたからです。

30代でハーバード・ビジネススクールに留学したときも、世界にはとんでもなく優秀な人間がいるという現実に直面しました。数字に強い人もいれば、組織論に詳しい人もいて、それぞれに高い専門性を持つ人が集まっていた。しかも最初はネーティブの英語の速度についていけず、さすがに「とんでもないところへ来てしまった」と焦りました。

でも優秀な人たちに囲まれたからこそ、気づいた自分の強みがありました。それは、「皆の意見をまとめたり、人と人とをつないだりして、1つのチームをつくることが自分は得意なのではないか」ということ。特定の分野に優れた人は、その方向にまっしぐらに進んでいくので、ほかの人が言うことに耳を貸さない傾向があります。数字に強いと、「数字が証明しているのだから、おまえの意見は意味がない」で終わってしまうわけです。

そこで私がメンバーの間に入り、「数字も大事だが、ほかの視点も大事なんだよ」と説明することで、議論の全体像をつくり上げることができた。私がやったことはチームリーダー的な役割になるのでしょうが、それが自分にできることなのだという感覚を掴んだのはこの留学中です。