顧客調査で利用者の胃袋をつかむ
さまざまなシリーズが開発されている背景には、徹底した顧客調査がある。各部署が顧客に対して、味や見た目、作り方など細部にわたり意見を聞いていく。菅氏自身も顧客の家を訪問し、冷蔵庫の中身を見せてもらっているそうだ。
「実際に購入している食材を見ると気づきが多いです。事前に行ったヒアリング内容とは違う点が見えたり、数値には表れない気持ちを感じ取れたりします。顧客からの提案を聞きに行くのではなく、『ミールキットについて困りごとはないか』『こういう新商品があったら欲しいと思うか』など、常に顧客目線でヒアリングを行っています」(菅氏)
また、価格設定にも細心の注意を払っている。ミールキットは、基本的には2人前と3人前を販売している。2人前の場合、最低価格は980円。有機栽培の野菜を使用して添加物を減らすとどうしても価格がつり上がってしまうため、クリスマスやハロウィーンなどの特別メニューは2000円を超えることもある。しかし1人前で換算したときに1000円を超えると、顧客の家計を圧迫しかねない。価格に対する納得感と安全性を重視した上で、2人前で1200~1300円の価格帯の商品が多い。1人600円程度の計算だ。
「手作り感」を残すことで、罪悪感をなくす
とはいえ、オイシックスのミールキットはすべての野菜や肉類をカットしているわけではない。例えば「そぼろと野菜のビビンバ」の場合、千切りに時間のかかるニンジンはカット済み、卵は温泉卵に加工しているが、傷みやすい小松菜は束で届けている。品質を管理する部署と協力し、鮮度や品質、時短の可否や顧客の要望などを踏まえて決めているそうだ。
あえて切る工程を残すことで、「手作り感」を出せるというメリットもある。レンジで解凍するだけの冷凍食品や、熱湯を注ぐだけのフリーズドライとは異なり、利用者が自分好みの調味料や食材を足して作ることもあるそうだ。ミールキットは、「全く料理をしていない」という後ろめたさや罪悪感を減らしつつ、自己流の味を追求できる、ほどよい位置にある。