英米で手術をする場合は「手動真空吸引法」が主流
海外では1960~70年代より中絶が合法化される国が増加した。戦後の混乱状態のなか合法化された日本とは異なり、フランスなどの国では、女性解放運動の結果、中絶を選択することは女性の権利として考えられ合法化されたといわれている。1973年にアメリカでプラスチック製の柔らかい管を用いた手動真空吸引法(MVA)が誕生し、1990年代には世界100カ国以上で普及した(※8)。
(※8)第38回日本産婦人科手術学会セミナー記録集「子宮内容除去術のための手動吸引法:低侵襲かつ有効な手術手技」
手動真空吸引法は、掻爬法よりも合併症のリスクが少なく、基本的には術前に子宮口を開く処置を行う必要がない。また、術中の痛みが少ないため、静脈麻酔ではなく局所麻酔で行うことができる。鋭的な器具は使用せず、子宮内を真空状態にして吸引するため、電動吸引法よりも子宮に対して愛護的であり、静かに処置することができ、簡便であることがメリットといわれている。
65カ国以上で認可済みの「経口中絶薬」もNG
さらに、1988年にはフランスと中国で経口中絶薬が認可された。経口中絶薬は、従来の手術よりも安全性が高い方法だ。自然流産と同じような子宮収縮による痛みと出血が生じるため、鎮痛薬を併用する。2000年ごろからは広く世界で普及し、現在、アメリカ、イギリス、スウェーデン、オーストラリア、タイ、台湾、インドなど65カ国以上で認可され、WHOの必須医薬品(※9)に指定されている。
(※9)人口の大部分におけるヘルスケア上のニーズを満たすものであり、個人やコミュニティーが入手できる価格であるべき薬
WHOは経口中絶薬として、妊娠を維持させる黄体ホルモンの働きを抑制する作用の「ミフェプリストン」と、子宮を収縮させる作用の「ミソプロストール」という二種類の薬剤を併用することを推奨している。
日本では、ミフェプリストンは一切認可されておらず、ミソプロストールは、胃潰・十二指腸潰瘍の治療薬(薬価:1錠約33円)として認可されているものの、中絶や流産に対する適応は認められておらず、妊婦への使用は禁忌であり、適応外使用をしないよう注意喚起されている。