フランスやオランダでは「中絶は無料」
日本では、2015年にようやく手動真空吸引法のキットが認可された。しかし全ての施設で導入されているわけではない。「慣れた掻爬法で問題ない」と考えている医師もいるだろう。そして、海外では約30年前から存在し、掻爬法よりも安全であると推奨される経口中絶薬は認可されていない。これは、先進国として極めて異様な状況ではないだろうか。
また、日本では妊娠初期の中絶は自由診療で約10万~15万円であり、海外と比較し高額といわれている。WHOは「中絶サービスは合法な医療保健サービスとして地位を認められ、女性および医療従事者をスティグマおよび差別から保護するために、公共サービスまたは公的資金を受けた非営利のサービスとして医療保健システムに組み込まれなければならない」と提言しており、フランスやオランダなどは無料で中絶を行うことができる。
これは、今年2月にタイで開催されたIWAC(International Congress on Women’s Health and Unsafe Abortion)という女性の健康と安全でない中絶・流産に関する国際会議に私が参加した際に、海外の参加者たちから投げかけられた言葉だ。日本の現状を知ったときの彼らの驚きと憤りをあらわにした表情は忘れられない。そのとき私は、明確な答えを示すことができなかった。
医療には人に罰を与える役割はない
なぜ日本の中絶は、世界基準から外れた状態になっているのだろうか。そして世界から見て異様ともいえるこの現状を、私たち日本人は知らされてきただろうか。
中絶に関する問題は、国によってさまざまな違いがあり、歴史、文化、法律、宗教、政治、保険制度、医療水準、倫理的背景、ジェンダー問題などを多角的に考える必要があるだろう。
中絶について考えていく上でまず共有したいことは、「性と生殖に関する健康と権利(Sexual Reproductive Health & Rights)」(※10)だ。私たちには一人ひとり、安全で満足できる性生活を送り、子どもを産むかどうか、産むとすれば、いつ、何人産むか決定する自由を持ち、適切な情報とサービスを受ける権利がある。しかし日本では、こういった権利があることを教えられず、適切な情報を知らされず、世界的な基準で見て、安全なサービスを受けられていない現状がある。
(※10)国際人口開発会議・行動計画(1994年)
当然ながら、医療には人を裁いたり、罰を与えたりする役割はない。どんな人に対しても、その人の身体的、精神的、社会的健康を守るために、世界標準の安全な医療が提供されるべきである。それは中絶に対しても変わるものではない。
9月28日は、国際的に安全な中絶について考える日「International Safe Abortion Day」だ。世界中の人が性と生殖に関する権利を満たすことを目指すWomen’s Global Network for Reproductive Rights(WGNRR)が2011年に定めた。この機会に、より多くの人に日本の現状を知ってほしいと思う。