日本で人工妊娠中絶を行うと、約15万円の医療費は自己負担で、手術では、金属製の器具で子宮内をかき出す「掻爬法」が行われることが少なくない。だが、海外では真空吸引法と薬剤使用が主流だ。また「中絶無料」という国もある。なぜ日本は女性にばかり負担を押しつけるのか。産婦人科医の遠見才希子氏が解説する——。
推計では「日本女性の6人に1人」に中絶の経験がある
人工妊娠中絶(以下、中絶)は、さまざまな理由によって妊娠を継続できないときにその妊娠を中断するために行われる。日本には、明治時代(1907年)に制定された「堕胎罪」がいまだに存在しているが、1948年に制定された旧優生保護法(現在は母体保護法)によって、一定の条件を満たした場合の中絶が認められた。したがって、「堕胎」と「中絶」は異なり、中絶は日本では合法だ。
日本の総中絶報告件数は年々減少しているが、それでも年間16万4621件(※1)(1日あたり約450件)で、日本の16~49歳の女性のうち約6人に1人は中絶の経験があると推計されている(※2)。
(※1)厚生労働省保健・衛生行政業務報告(2017年)
(※2)厚生労働省研究班・日本家族計画協会 共同調査報告(2005年)
私はこれまで産婦人科の現場で数々の中絶に携わってきた。中学生カップル、20代の社会人カップル、30代の夫婦間、40代の不倫関係など年代は幅広い。また中絶に至る理由についても、経済的困難、持病の悪化、DV、レイプなど、多様な背景がある。どんな理由や背景であっても、安全な医療を提供し、その人の健康をサポートすることが中絶に携わる医療従事者の役割である。