手段を選ばない曹操か、情に厚い劉備か

志賀といえば、ゴーン体制のナンバー2という印象が強いでしょう。私自身も「ナンバー1のタイプではない」と思うことがたびたびありました。その一方で、『三国志』の劉備玄徳みたいなリーダーに憧れた時期もあります。劉備は情に厚く、優しいリーダーです。関羽が殺されると、危険を顧みずに弔い合戦に出かける。曹操に追われて城から逃げたときは、自分を慕う住民たちが遅れるのを見捨てることができない。経営者であれば、苦難を乗り切るためにリストラを断行するか、従業員を大切に思って雇用には手をつけないか、迷いに迷うタイプかもしれません。強いリーダーではなくても、人物としては実に魅力的です。

朝日新聞/Getty Images=写真
カルロス・ゴーンに登用され、46歳で常務執行役員に就任。その後、51歳でCOOに就任し、販売・人事、財務、品質部門のトップに。

その劉備に、予想もしない解決策を提示してみせるのが諸葛亮です。ナンバー2タイプの私にとっては、やはり理想の参謀役です。イエスマンではなく、経営リソースを冷静に分析してベストな解を示す。これはマニュアルがない世界であり、常にアンテナを張って、その情報網から的確な戦略を導きだすのです。

私は日産で、16年ほどゴーンの下にいました。ゴーンのことは『三国志』でいえば、曹操に重ねて見ていたところはあります。曹操は冷徹なリーダー。自分が逃げるときには住民を皆殺しにする。劉備のような優しさがない一方で、あの手段を選ばない激しさがなければ中国統一をめざせなかったようにも思えるのです。私が好きな吉川英治の『三国志』は、曹操を魅力的な人物に描いているので、日本には曹操ファンが多いといわれます。ビジネスのさまざまな局面で、「劉備、曹操、孔明ならここでどう考えるか」と視点を切り替える。それが『三国志』から最も学んだことかもしれません。

(構成=Top communication 撮影=市来朋久)
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