どんな人生にも、山があれば谷もある。ピンチや一生を決定する分岐点に立ったとき、成功者たちはどんな本を支えとしてきたのか――。「プレジデント」(2019年10月4日号)の特集「『人間の器』を広げる1冊」より、記事の一部をお届けします。
ゴーンは『三国志』の曹操。軍師が必要だった
大学を出て日産自動車に就職できたときは、本当にうれしかったですね。父は和歌山で日産車を販売するディーラーでしたから、日産車は幼い頃から大好きでした。中学生の頃はブルーバード510、大学生になるとスカイラインに憧れたものです。しかし入社時に、私が希望した配属先はマリーン事業部。営業職に就きたかったものの、国内の自動車販売は父と接点がありそうだからと敬遠し、海外は英会話が苦手だから無理だと思いました。ほかに営業職はないかと思ったら、新規事業のモーターボート事業があったので、これは面白そうだと選んだのです。
新入社員が集まるなか、私の配属先が発表されると失笑が起こり、あとで同期から「貧乏くじを引いたな」と言われました。「日産で自動車の仕事に就かないのはやはり失敗だったか」と不安になったものです。日産はそれ以前からボート用のエンジンを販売していたものの、モーターボートの事業はスタートしたばかり。40人ほどの小さな所帯に開発、生産、営業の部署があり、営業担当は私を含めて3人。業界の最後発ですから、新規開拓ばかりで苦労の連続でした。それでも自動車じゃないから、と腐ることはなく、毎日が充実していたのは、20代の若さと新規事業への熱意があったからでしょう。