教員向けに書かれた解説書の中身
【鳥飼】そういうことも起こり得るので、「先生の言うことをよく聞きなさい」という教えは、英語の授業に関しては、違うかもしれません。QRコードで正しい発音を聞かせる方が無難かもしれない。英語教職課程で新たに音声学が入りましたが、独立した必修科目ではないので、中高の教員でも英語の発音を指導できない方が多いのです。
【三宅】子どもたちも音に関してはわりとするどいので、本物の英語と比べて目の前にいる先生が話す英語が異なるとわかるかもしれませんね。
【鳥飼】わかる子はわかるでしょうけど、わかったらわかったで先生に気をつかうと思います。英語にはいろいろな発音があることを学ぶ機会だと考えれば良いのでしょうが。
【三宅】それがむしろいいほうに働いて、「先生も一生懸命英語を話そうとしているんだ」と思ってくれるなら、それはそれでいいのかなと思うのですが。
【鳥飼】2020年度までの移行措置として文科省が用意した小学校の英語教材に、教員向けに書かれた解説書が付いているのですが、そこに今おっしゃったのと同じことが書かれています。「先生は、CDやネイティブのように話せないかもしれないけれど、そんな先生でも英語を頑張っているのだから、みんなも頑張ろうね、というつもりでやれば生徒はついてきます」というような励ましの一文です。
でも、その一方で「気持ちをこめて、ジェスチャーを交えながら絵本を読み聞かせしましょう」といった指示が書いてある……。苦手な英語で絵本を朗読するだけでなく、ジェスチャーまで入れるんですから、小学校の先生は大変です。
英語の知識は、学校の授業だけでは到底身につかない
【三宅】たしかにそうですね。ただ、現実問題として来年4月からの導入が決まりました。保護者としてはどういった面に注意すればいいでしょうか。
【鳥飼】昨年、NHK出版から頼まれて『子どもの英語にどう向き合うか』という本を書いたのですが、導入後は現場が混乱するのは目にみえているので最初はお断りしたのです。「小学校英語の話は勘弁してください」と。ただ、編集者が保育園児のお子さんをお持ちの母親で、「子どもがもうすぐ小学校に入るが、親としてどうしたらいいのかわからないのでアドバイスが欲しい」と強く懇願されて書いたのです。
【三宅】親としては深刻な悩みですね。
【鳥飼】そう思います。それで、その本を書くために学習指導要領を改めて仔細に読んだのですが、小学校も中学校も高校も、内容がほとんど同じなのです。文末がちょっと違うくらいで、最初は「え? まさか中高の内容を小学校に丸ごとコピペしたの?」と思ったくらいです。
ほとんど同じということは、文科省が小学生に学ばせようとしている英語の知識は、学校の授業だけでは到底身につきません。小さい時から英語を学んでいる子でも、レベルが高すぎて、学校の授業だけで学ぶのは無理だと思います。