文科省が実施した3つの対処療法

【三宅】教員養成は行ってこなかったですからね。

【鳥飼】全然行っていません。それで、「教員免許法を改正するべきだ」と機会をとらえては主張してきました。現状では、小学校で、中学校の英語免許を取得している教諭は数パーセントいますが、小学生を対象に英語を指導する免許を持っているわけではありません。そのような免許が存在しないからです。小学生に英語を教えることを専門にする教員の免許を出すようにすれば、各大学の教職課程で小学校英語教員養成ができるわけです。

それを行わずに文科省が何をしたかというと、3つの対症療法です。1つ目は、小学校の先生が大学の教職課程の認定講習に何週間か通えば中学校の英語免許をもっているとみなすとしました。それだけで大丈夫か? という不安があります。2つ目は、英語が教えられそうな人に特別免許を与えることですが、どうやって質を確保するのかという懸念が出ています。3つ目は、定年などで退職した元中学校教師に教えてもらうことです。名案のようでいて、実態は課題があります。

【三宅】中学生と小学生では違いますからね。

【鳥飼】そうなんです。まるで違います。実際、現場の先生方に聞いてみると、中学生を教えてきた教師では、子どもたちがついていかれない。発達段階が違うので当たり前なのですが。

教師から変な発音の英語をすり込まれるリスクも

【三宅】ただ、小学校の時から英語を楽しみ、とくに音に慣れておく、という意味ではいいことかなと思っているのですが。

【鳥飼】それは正しい指導者についた場合の話で、いまの制度だと英語が嫌いになったり、変な発音の英語がすり込まれる可能性が高いといえます。そのことは教科書会社も知っていますから、5、6年生の検定教科書にはQRコードがついていて、タブレットやスマートフォンをかざせば音が出るようになっています。ただ、「自分で教えたい」という気持ちが強い先生は、「リピート・アフター・ミー」と指導するでしょうし、先生に確認したがる児童も少なくないでしょう。でも子どもは音を吸収しやすいからこそ、ちゃんとした有資格者が教えなければ駄目だと思うのです。

【三宅】そうですね。とはいえ、小学校の先生の中には当然、熱心な方もいらして、私どもでもJ-SHINE(小学校英語指導者協議会)講座を実施しておりますが、現役の先生が多く受講にこられます。東京開催だと1回あたり受講生は100人ぐらいですが、その10分の1ぐらいは小学校の先生で、北海道から毎回お越しになられる方もいらっしゃいます。

【鳥飼】そうですか。やはり悩んでいらっしゃるんですね。そういう熱心な先生は多く、悩んだ末に大学院に通う小学校教員もいるほどですが、全教員が自信を持って教えられるような体制を国として整備してほしいものです。

私の実体験として、小学校3年生の時に先生から「子どものくせにキザな発音はやめなさい」と言われて、日本語的な英語に無理やり直された経験があるのです。

【三宅】それはひどい……。