失敗その3=市場との対話不全

しかし、こうした市場の期待を完全に裏切ったのが、2018年12月FOMC(連邦公開市場委員会、日本の日銀金融政策決定会合にあたる)後の記者会見である。同会見は失敗その3「市場との対話不全」の代表格だ。

質疑応答の二問目で、記者が尋ねる。上述したような背景を加味して「利上げペースをいったん緩めるならば、同時に続けられてきた保有資産の圧縮ペースを修正する議論はあったか」、つまり、量的引き締めのスピードも当然落とすのですね、と。対して議長はこう即答した。「保有資産を機械的に減額することは決定事項であり、変更は微塵みじんも考えていない。」——同発言は金融市場を奈落の底にたたき落とし、関係各者のクリスマスに暗鬱とした色合いを添えることになった。

そして年が明け、2019年1月の講演において、同氏は舌の根も乾かぬうちから手のひらを返す。保有資産の圧縮政策を修正することをためらわないと発言したのだ。加えて政策金利の引き上げを一時停止する意向も示された。要するに、市場の反乱に対して事後的に全面降伏したということだ。

なお、この講演においてのみ、同氏がアドリブを控え、徹頭徹尾、原稿を読み上げている。このためFRBスタッフから強くたしなめられた議長が、半ば強制的に原稿を読まされた可能性が高い。

金融緩和の初動ミスでついに「逆イールド」が出現

かくして、金融市場の大混乱という「あつもの」に懲りて、「なますを吹いた」FRBは量的引き締めの停止を今年の3月に決定した。10年以上ぶりとなる利下げも、渋々ながら7月に行われている。

しかし、これは完全なる初動ミスである。量的引き締めを早期に停止すると、米国債等の需給が改善し、中長期の金利が下がる。他方で、高すぎる(短期の)政策金利を変えなければ、長短金利差は縮小する。そしてついに、「逆イールド」が出現してしまった。端的に言って、政策対応の順序を間違えたということだ。これが失敗その4「金融緩和の初動ミス」である。

「逆イールド」の恐ろしさは2017年末の拙稿「株式バブルの終焉を伝える確かなサイン」で詳細に触れているので、再録する。

過去において、世界的な景気拡大・株高が終わり、バブル崩壊・景気後退に入る直前には、必ずと言ってよいほど「長短金利の逆転現象」が米国で確認されてきた。もっとも、この発見は何も目新しいものではない。卵と鶏の議論となってしまうが、そもそも長短金利差の逆転は、債券市場から見た場合、将来の景気減速(後退)を意味する。また、銀行をはじめとする金融機関から見た場合、長短金利が逆転するということは、貸出を増やせば増やすほど損をすることを意味する。