※本稿は、森信茂樹『デジタル経済と税』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。
われわれは、毎日のようにAmazon(アマゾン)で買い物をし、Google(グーグル)で検索し、Apple(アップル)で音楽を聴いています。それらなしでは通常の生活はできないほど、われわれの生活に浸透しています。
しかし彼らは、われわれ日本人を相手にビジネスをして収益を計上しながら、日本にほとんどと言っていいほど、法人税を納めていません。このような現象は日本だけではなく、欧州諸国やインド、中国といった新興国、さらには途上国でも生じています。
2015年にOECD(経済協力開発機構)が公表した試算によると、米国IT企業などが行う、無形資産のタックスヘイブン(租税回避地)への移転による国際的租税回避によって、全世界の法人税は、1000億~2400億ドル(1ドル100円で換算すると10兆~24兆円)も失われています。これは、全世界の法人税収の4~10%にも相当する巨額な金額になります。
「プラットフォーム」というビジネスモデルが出現
なぜこのようなことが起こっているか。その背景には経済のデジタル化=デジタル経済の存在があります。デジタル経済のもたらす大きな変化を挙げると、次の四つにまとめられます。
第1の変化は、モノからサービスへの転換です。デジタル経済の下では、モノの取引がデジタル財というサービスの取引(役務の提供)となります。例えばこれまで百科事典は、書籍というモノ(ハードウェア)でした。筆者が幼い頃は、多くの家庭に『ブリタニカ』『アメリカーナ』などの百科事典が、応接間に「飾り」としておいてありました。
しかしその後ブリタニカは、訪問販売部門を廃止し、CD-ROM取引になりました。さらに2006年からは、オンラインサービスになっています。知りたい物事を探すのに本を読むのではなく、インターネットで検索サービスを利用するように変化したわけです。これは百科事典という書籍・モノが、デジタルコンテンツ(無形資産・知的財産権)のオンラインサービスに転換したということを意味しています。
音楽の世界でも革命的な変化が生じてきました。これまでレコード盤、CDといったモノ形態で流通してきた音楽ですが、今は音楽コンテンツというデジタル財となり、インターネットでわれわれが入手するサービスになっています。