答えが紛らわしすぎる問題が普通に出題される

今回の問題の核心を具体的に理解いただくために、まずは僕が考えたモデルケースを紹介したい。

《モデルケース》
【文章Ⅰ】お金は物質である。
【文章Ⅱ】お金は物事の価値を表示する、抽象的な概念である。
【文章Ⅱ】の冒頭に「お金」(太字)とあるが、そのような「お金」と似たような例としてふさわしいものを、以下の①~②のうちから一つだけ選べ。なお、解答にあたっては、【文章Ⅰ】を踏まえること。
①道ばたにおちている石ころ。
②言葉の表す意味。

「お金」を、一方では形のある「物質」だといい、もう一方では形のない「概念」だという。最初に結論を言ってしまえば、この設問は問題として成立していない。

なぜか。

【文章Ⅱ】においては、〈お金=抽象的な概念〉と定義されるはずだ。この定義を優先するなら、選択肢②の「言葉の表す意味」が正解ということになる。なぜなら「意味」は、「抽象的な概念」であるから。

これに対して、解答において踏まえるべき【文章Ⅰ】は、〈お金=物質〉と説明している。よってこちらを優先するなら、同じ「物質」である「石ころ」について説明する選択肢①が正解となる。

では、今回のこの設問では、太字の「お金」を含む一文と【文章Ⅰ】と、どちらを優先すべきなのだろうか?

たしかに設問は、【文章Ⅰ】の内容を踏まえることを条件としている。しかし、わざわざ太字の「お金」を指定している以上、それを含む一文の内容も参照しなくてはならない。つまりこの時点で、「どちらを優先すべきか」という点について、客観的に判断することができなくなってしまうのだ。そうである以上、選択肢の①と②、どちらが正解かを選ぶことは、原理的に不可能になってしまうのである。