「グレーな客」を芸人に押し付け、吉本は責任回避

2010年ごろは東京証券取引所が反社会的勢力を市場から退出させようと規制を強化していた時期と重なる。上場廃止基準にも「反社会的勢力の関与」という一文が書き込まれた。反社と付き合いのある会社は資本市場から退出させるという強い意志が示されたわけだ。

それに対して吉本興業は資本市場から自ら退出する道を選んだ。経営者や大株主に暴力団などとつながりのある人がいたということなのか。上場廃止でその株主と縁を切ることができたというのは、その株式を買い取ったということなのか。

吉本興業は「反社」とは縁を切ったと言いながら、芸人がいわゆる「闇営業」をやり、その中には「微妙な客」がいることも薄々承知していたのではないか。暴力団に詳しいジャーナリスト伊藤博敏さんは「反社認定は難しい」と指摘している(現代ビジネス「闇社会を長年取材をしてきた私が「吉本興業騒動」を笑えない理由」2019年7月25日)。自ら暴力団と名乗ったりする人は激減し、すべての問題人物や会社を「反社」だと警察が認定しているわけではない、というのだ。そうしたグレーな客との付き合いを、契約関係が曖昧な芸人に押し付け、会社としての責任を回避してきたのではないか。

非上場に比べ、上場企業の方がディスクロージャーやコンプライアンスに対する要請も厳しい。「非公開にしたからやってこれた」という吉本興業の言い訳はあまりにも空虚だ。

磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。
(写真=時事通信フォト)
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