洋食はこってりした味付けでバターや油をたくさん使うイメージがある。工藤氏も、大膳課と修業していたフレンチの名店「代官山 小川軒」では、料理の位置づけがまるで違うことを感じたという。

素材の味を味わっていただけるよう最低限の味付け

「料理人は若ければ若いほど、個性を出してガツンと攻めた味付けや印象に残る料理を作りたくなるものです。しかし、特別な日の外食と違い、毎日の食事がそれでは食べるほうが疲れてしまいます。だから大膳課で作る食事は誰が担当しても同じテイスト。洋食も素材の味を味わっていただけるよう最低限の味付けでした」

例えばメーン料理にする鶏を丸ごと一羽捌いたとき、骨が残る。先に紹介した「一物全体食」の考えに沿って、大膳課ではその骨でスープをとり、食事の最初に出すコンソメスープを作ったり、スープを煮詰めてソースを作る。骨から出るだしや脂や甘みが合わさった濃度の高いスープやソースができるため、それに少々の塩やコショウを入れるだけで十分味わい深いものになるという。

「和食も洋食も、食材は御料牧場で穫れたものを基本に、魚などは市中でも仕入れていました。御料牧場の家畜は、ストレスのない環境でオーガニック飼料を与えられて育ちます。だから肉も牛乳も卵も濃厚です。畑で育てている野菜も、無農薬・有機栽培なのでおいしいんです。そんな極上の素材の味を消すような濃い味付けでは、素材が死んでしまいます」

野菜にかけるドレッシングにしても、レモンを搾って塩・コショウ、場合によっては醤油を少し入れるくらいが、最も葉野菜の味を感じられるという。「ドレッシングにせよソースにせよ、それ自体をなめてもおいしくはありません。素材にかけることによっておいしくなる、それが素材を生かす味付けです」。

当時のご朝食の献立は、トースト、オートミールもしくはコーンフレークス、サラダと温野菜。飲み物はカルグルト(御料牧場で作られる独自の乳飲料)に、紅茶、コーヒー、ジュース、煮冷水(1度煮沸かして冷ました水)などを侍従が用意した。

「ご高齢になる前はこのご朝食にハムエッグズなどの卵料理も加わっていました。私がいた頃はほかに茹でたピーナツか熱した銀杏を必ず3粒召し上がっていました。栄養価が高かったからだと思います」

昭和天皇はお酒が体質に合わなかったために口にしなかったが、甘いものは好まれたと言われている。

「デザートは果物でしたが、いも類もお好きでしたから、付け合わせとして『サツマイモの黄金焼き』(甘さを控えたスイートポテトのようなもの)などはお作りしました。レシピで紹介した『バナナの生ベーコン巻き』もお好きだったようです。砂糖は消化にエネルギーが要りますから、年齢が上がるとかえって疲れます。そこで素材そのものに甘さがあるものをお出ししたのだと思います」